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【油井宇宙飛行士ミッション報告会・大人の部(東京開催)】ISSから月探査へ―最前線のミッションの未来を紹介
昨年8月から今年1月にかけて、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在し、さまざまなミッションに取り組んだ油井宇宙飛行士。帰還後のリハビリを終え、現在は活動報告も積極的に行っています。その一環として、5月19日に東京都中野区にてミッション報告会を開催。本イベントは2部構成で行われ、後半の「大人の部」は平日夜の開催にもかかわらず多くの来場者が集まり、併設された展示コーナーもにぎわいを見せました。また、報告会の様子はJAXA公式YouTubeでライブ配信を実施。油井飛行士によるミッション報告や、研究者を交えたトークセッションを通じて、「きぼう」での科学実験の成果から、将来の月探査に向けた展望まで、宇宙開発の最前線を広く社会へ届ける貴重な機会となりました。
オープニング
大人の部もダイジェスト映像からスタート。映像が終了すると、本日の主役である油井宇宙飛行士が登場し、会場の参加者とライブ配信視聴者に挨拶を行いました。続いて、花束贈呈へと進むと、ここでサプライズ。プレゼンターとして大西宇宙飛行士が登場しました。
驚きの表情を見せた油井宇宙飛行士に対し、大西宇宙飛行士は「半年前、ISSでミッション中の油井さんが宇宙から私の報告会に参加してくれたお礼です。2人にとって想い出深いペアルックの服で登場させてもらいました」と返答。2人の親しい関係性に会場の雰囲気がなごむ中、フォトタイムも設けられました。
サプライズで登場した大西宇宙飛行士と花束を受け取る油井宇宙飛行士(Image by JAXA)
油井宇宙飛行士によるミッション報告
ミッション報告は、子どもの部と同様に映像を振り返りながら油井宇宙飛行士が解説する形式で行われました。大人の部では、より詳しく専門的、技術的な情報も交えて紹介されました。
クルードラコン宇宙船の打上げ時に4Gの負荷がかかることについては、航空自衛隊所属時に乗っていたF15戦闘機の9Gと比較すれば「たいしたことはなかった」と、経験をもとに紹介。HTV-X1号機の把持ミッションについては、秒速約8kmで動いているISSの約10m先にピタリと止まっているHTV-Xの飛行精度の高さを興奮気味に語り、「おかげでとても操作しやすかった」と述べました。
また、自身が撮影したさまざまな地球上の写真を活用した、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)と防災科学技術研究所(NIED)とのコラボ企画についても触れ、宇宙からの地球観測活動が持つ科学的価値を伝えました。
映像を交えてミッションの解説をする油井宇宙飛行士(Image by JAXA)
トークセッション
続いて行われたトークセッションでは、ミッションの成果が今後の月・火星探査にどのようにつながるのかについて、登壇者による解説が行われました。
きぼう利用ミッション紹介、トークセッションの様子(Image by JAXA)
トークセッション01「きぼう利用ミッション紹介」
トークセッション前半は、油井宇宙飛行士が実施したミッションの中から、植物実験と技術実証をピックアップ。「きぼう」日本実験棟の環境や設備の特徴を油井宇宙飛行士が説明し、それぞれの研究者が研究の目的や狙い、今後の展望を説明しました。
<植物の細胞分裂の研究>
富山大学学術研究部理学系講師の玉置大介先生が登壇し、宇宙環境が植物の細胞分裂に与える影響を解明する研究について説明。将来、月などで長期滞在する際には作物生産が必要となるため、微小重力が植物の形作りに与える影響を正確に把握することが重要になると述べました。ここでは微小管というタンパク質繊維の役割や、油井飛行士が担当した実験のサンプルの解析状況などが報告され、宇宙飛行士との信頼関係が質の高い実験につながることも強調されました。また、食料や酸素の供給源となり、さらには土壌にもなる「植物」は、月や火星での持続可能な生命維持基盤の一部になり得るため、現地で植物を生産し続ける技術の確立が必要不可欠になるという見解が語られました。
植物細胞分裂研究について説明する富山大学の玉置先生(Image by JAXA)
<二酸化炭素除去システム(DRCS)の実証>
JAXA研究開発員の伊妻ディラン駿が環境制御生命維持技術について説明しました。まず、体重82kgの宇宙飛行士1人当たりでは、1日800gの酸素消費と1kgの二酸化炭素排出があるというデータを示し、密室での循環システムの重要性を解説。その中で、DRCSは吸気口から取り込んだ船内の空気から、宇宙飛行士の呼吸によって増える二酸化炭素だけを除去し、それ以外の気体を船内に戻す役割を担うことを紹介しました。また、二酸化炭素吸収剤を再生利用するための加熱温度が50〜60度とNASAのシステムの250度と比較して低い点をあげ、限られた電力エネルギーの中で生命維持システムを動かす上で、この大幅な省エネ技術がアピールポイントになると述べました。
環境制御生命維持技術について説明するJAXA研究開発員の伊妻(Image by JAXA)
トークセッション02「月探査ミッションの最前線」
10分の休憩を挟んだ後、トークセッション後半がスタート。将来の月面での有人活動に向けて研究、開発が進められているLUPEXと有人与圧ローバーのプロジェクト担当者が登壇し、ミッションの内容を紹介しました。
<月極域探査ミッション(LUPEX)>
JAXA月極域探査機プロジェクトチーム 研究開発員の井上博夏が、インド宇宙研究機関との国際協力で進められているLUPEXミッションを紹介。月の南極での水資源探査を目的とし、地中レーダーと1m近い掘削ドリルを搭載したローバーで水の存在量と分布を定量的に調査し、それが将来資源として利用可能かどうかを調べるミッションであることを説明しました。また、ローバーの月面での越夜、移動、掘削の技術や、搭載された複数の観測機器から、将来の月面基地建設に向けた重要なデータを取得する計画であることも説明されました。
LUPEXミッションについて説明するJAXA研究開発員の井上(Image by JAXA)
<有人与圧ローバー開発計画>
JAXA有人与圧ローバーエンジニアリングセンター 研究開発員の山口正光ピヨトルが有人与圧ローバーについて解説しました。有人与圧ローバーは、アルテミス計画での月面探査において、宇宙服を着用せずに空気のある環境で生活しながら広範囲の探査を可能にします。そのため探査範囲の飛躍的な拡大が見込める他、国際的な協力ミッションの中で日本のプレゼンスを示せるとも説明しました。また、日本がローバーを提供するとともに、日本人宇宙飛行士2人が月面に派遣されるという国際協力の枠組みが定められている点も紹介しました。
有人与圧ローバーについて解説するJAXA研究開発員の山口(Image by JAXA)
また油井宇宙飛行士は、このトークセッションの締めくくりとして、月探査は非常に難しいミッションであり、無数にある課題を解決していくためには、一部の専門家だけでなく、日本人全員が協力し、官民一体となって取り組むことが不可欠であると述べました。そして会場やライブ配信の参加者に向けても、この壮大なプロジェクトを「他人事」と捉えるのではなく、「自分がどこで貢献できるか」を考えて積極的に関わってほしいと呼びかけました。
未来の月探査ミッションの最前線!トークセッションの様子(Image by JAXA)
質問コーナー
トークセッションの後はいよいよ参加者から油井宇宙飛行士への質問コーナー。現役宇宙飛行士と直接交流できる貴重な機会ということで、大人の部でも続々と質問があがりました。その一部をご紹介します。
-人類にとって、宇宙開発はどのような意味や価値を持つのでしょうか?油井宇宙飛行士の視点で構わないので教えてください。
人類が発展し続けるためには常に「開拓するフロンティア」が必要であり、それがなくなると未来が暗くなり経済も停滞してしまいます。宇宙という無限のフロンティアに挑戦し続けることで、人類は永久的に発展する可能性を持ち、新たな技術革新を生み出すことができると思います。さらには、そうした開拓の先でいずれ地球外生命体(宇宙人)との接点が生まれるかもしれませんよね。私はそういう未来を思い浮かべて、この宇宙の大航海時代に臨んでいます。
-宇宙空間での健康面のチェックはどのようにされているのでしょうか?また軌道上で実施する血液検査・超音波検査などについても教えてください。
宇宙飛行士には、年1回の地上での詳細な健康診断があり、その結果でお墨付きをもらってから宇宙に行きます。また軌道上でも毎週のお医者さんとのビデオ会議、血液検査、超音波検査などにより厳密に健康管理がされています。今回のミッションでは、軌道上で簡易の検査装置を用いた血液検査も行いました。無重力下では表面張力などの影響で地上と同じように検査機器が働かないこともあり、専門家のサポートや事前の訓練が大事だなと実感しました。
-月や火星など活動範囲が拡大した際、医療面ではどのようなことが課題になると思われますか?
ISSとは異なり、月や火星で具合が悪くなってもすぐに地球へ帰還することはできません。そのため、どのような薬や検査装置を持っていくべきか、医師を同行させるべきかなどの課題が山積しています。特に火星などでは通信遅延(片道20分など)が発生するため、地球からの指示を待つだけでなく、リモート操作のロボット技術や、自律的に対応できる「AI医師」による医療支援システムの導入が必要になってくるだろうと思います。
客席へ降りて質問に答える油井宇宙飛行士(Image by JAXA)
閉会挨拶
大人の部の最後にJAXA理事補佐の川崎一義が壇上し、オンラインを含め約1200人が参加したことを報告。参加者への感謝が述べられました。さらに、人類の持続的な宇宙進出という目標に向けて、今後も諏訪宇宙飛行士、米田宇宙飛行士の活動が続くことを伝え、引き続きJAXAの有人宇宙活動を応援してくださいと締めくくりました。
なお、本報告会の様子はYouTubeにてアーカイブ配信を行っています。ぜひご覧ください。
油井宇宙飛行士ミッション報告会【大人の部】(2時間02分25秒)
関連リンク
- 【油井宇宙飛行士ミッション報告会(東京開催)】子どもの部を開催しました!
- 地球を共に感じよう(Earth Diary)
- 数字で見るきぼう【明るい未来編】
- 国際宇宙探査の取り組み(LUPEX/有人与圧ローバー)
- 宇宙環境が植物の細胞分裂に与える影響の解明(Plant Cell Division)
- 将来有⼈宇宙探査に向けた⼆酸化炭素除去の軌道上技術実証(DRCS)
- 第73/74次ISS長期滞在ミッション 滞在記録・活動成果
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