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油井宇宙飛行士活動レポート&ニュース
油井宇宙飛行士活動レポート&ニュース
2025.06.23

油井亀美也宇宙飛行士 ISS滞在中の「きぼう」日本実験棟での利用ミッションに係る記者説明会および国際宇宙ステーション長期滞在に係る記者会見

2025年7月以降にクルードラゴン宇宙船運用11号機(Crew-11)に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在を予定している油井亀美也宇宙飛行士が、6月4日に記者会見を行い、現在の自身の状況やミッションに対する意気込みを語り、報道関係者からの質問に答えました。また、同時に油井宇宙飛行士のISS滞在中に予定されている「きぼう」日本実験棟での利用ミッションに係る記者説明会も合わせて行われ、インクリメント73(※)を担当する松﨑乃里子インクリメントマネージャがその内容について概要を説明しました。

※インクリメントはISSの運用期間の単位です。担当するインクリメント期間の利用計画を立て、すべてのミッションを成功に導くためのコーディネータがインクリメントマネージャです。

記者会見に臨む油井宇宙飛行士と松﨑インクリメントマネージャ(Image by JAXA)

「きぼう」利用ミッションに係る記者説明会

前半に行われたミッション説明会では、インクリメント73(2025年4月20日~2025年12月頃)を担当する松崎インクリメントマネージャから、油井宇宙飛行士のISS滞在中に予定されているミッション、地上の運用体制、Crew-11の飛行概要の説明が行われました。油井宇宙飛行士は、有人宇宙滞在に必要な二酸化炭素の除去技術の実証実験、ポストISSに向けた自動化・自律化を実現するマニピュレータ装置の技術実証、商業利⽤ユーザのニーズが⾼いマルチメディア機器の環境整備、宇宙環境での作物生産システムの開発につながる植物細胞実験など、多様なミッションを実施する予定になっています。

  • JAXAが実施予定の「きぼう」利用ミッションの詳細はこちら

油井宇宙飛行士の記者会見

続いて行われた記者会見では、油井宇宙飛行士が現在の心境、Crew-11の仲間とチームの状況、ミッションに対する抱負などを交えて挨拶を行いました。その後、会場に集まった報道関係者との質疑応答の時間が設けられ、さまざまな質問に時にはユーモアを交えながら、ひとつずつ丁寧に回答しました。

油井宇宙飛行士の冒頭の挨拶(抜粋/要約)

「JAXA宇宙飛行士の油井亀美也です。本日はお忙しい中、会見にお越しいただきまして本当にありがとうございます。このように報道関係者の方々と対面で記者会見に臨むのは、前回の長期滞在ミッションから帰還後の記者会見以来(※)です。その際「明日にでも、もう一度宇宙に行きたい」と発言しましたが、あれから10年が経ちました。その間いろいろな経験をして、今また宇宙に挑もうとしています。現在は、今年7月以降の打上げを目指して訓練を行なっています。訓練は非常に順調です。現在ISSに滞在しているCrew-10と、次にISSへ向かう私たちCrew-11は引き継ぎがあるため、数日間一緒にISSに滞在しますが、そこで私の同期であり友達でもある大西宇宙飛行士と再会できるのはうれしいことです。友達と宇宙で待ち合わせするような機会はなかなかないことなので、楽しみにしています。Crew-11の仲間は、当初それぞれ別のミッションにアサインされていましたが、アサインの組み直しを経てクルーになったという経緯があります。各自がいろいろな苦労を抱え、それを乗り越えてフライトに臨もうとしているからか、チームワークは万全です。私自身のミッションに対する抱負は「明るい未来を信じ、新たに挑む!」というキャッチコピーに込めさせていただきました。日本は自然災害が多い国で、今もその復興に励んでいる方々がいます。また、「失われた何十年」と言われる経済の停滞や国際競争力の伸び悩みといったニュースも多く目にします。ですが、有人宇宙開発という部分において、日本は一歩一歩着実に技術を進め、世界から信頼と期待を寄せられる存在です。ですから、私がミッションでしっかりと成果を出すことができれば、その信頼はさらに高まると思います。そして、私が宇宙で頑張る姿を多くの日本人に見ていただくことで、日本はまだまだやれる、未来は明るい、と感じてもらえればと思っています」

※ISS長期滞在搭乗員に係る記者会見が2023年6月16日に開かれていますが、この時はオンラインでの実施でした。

記者会見に臨む油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

質疑応答(一部)

ー前回の宇宙飛行から長い時間が経ちました。今ここに至るまでに参加した訓練や活動で特に印象に残っているものはありますか?

「前回のフライトが終わった後、2016年から宇宙飛行士のグループ長という役目でマネジメント的な仕事をしました。この経験から、地上で宇宙飛行士を支える人たちの苦労や必要な調整について知ることができ、非常によい勉強になりました。また、宇宙飛行士の訓練においては、宇宙船に関する訓練が印象に残っています。元パイロットであったがゆえに、システムの設計から何からすべてが興味深く、教官に細かい部分までたくさん質問をしながら臨んだ訓練は楽しかったです」

ー次が2回目のフライトになりますが、1回目と2回目で、4人のクルーの中での立場や役割に変化はありますか?前回との違いについてどう感じていますか?

「1回目と2回目では大きな違いがあると感じています。私は1回目のフライトの際、例えばスケジュールどおりに仕事が進まない、思ったようにいかず失敗するというトラブルが起きた時にどのように対処すればよいのかということを、既にフライト経験のあるスコット・ケリー宇宙飛行士から学びました。私が1回目で経験したように、自分が持つ知識や技能を、ルーキーの宇宙飛行士に引き継いであげることが、今回の私の大きな役目だと思っています。また、クルーの一員であるマイケル・フィンク宇宙飛行士は非常に経験豊富なベテランで、リーダーシップは申し分がないのですが、私にも意見を求めてくれます。その際は、日本人としての視点からチームに貢献できるようなインプットをするようにしています。ルーキーの二人は、本当に初めのフライトなのかというくらい、非常に優れた人たちなので、早く飛行経験を積んで成長してほしいですし、これから月、火星へとさらに遠くへ行くミッションで活躍してほしいです」

ーインクリメントマネージャと宇宙飛行士として、お互いの印象や期待していることを教えてください。

松崎インクリメントマネージャ「油井さんの第一印象としては「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉が即座に浮かんでくるような方で、誰に対しても非常に謙虚で、ご自身が多くの方の支援を受けてここに居るということを自覚されています。地上のスタッフ、JAXA職員は、日本人宇宙飛行士に対する思い入れが深く、宇宙飛行士がやっている仕事を自分のことのように見ているところがありますので、油井宇宙飛行士にはぜひ楽しんで宇宙での滞在や作業をしていただきたいと思います」

油井宇宙飛行士「松崎さんは初対面の時から親しみやすく話しやすい方です。地上スタッフとクルーにはコミュニケーションがとても大事ですが、そこにおいて全く問題はないと感じています。非常に落ち着いて計画ができる方なので、計画調整の部分は松崎さんにお任せして、私は軌道上でそれを実行するという形で一緒に頑張っていきたいと思っています」

報道陣からの質問に答える松﨑インクリメントマネージャ(右)(Image by JAXA)

ー今回のミッションロゴについて、説明をお聞かせください。

「前回のミッションロゴと比べると、間違い探し程度にしか変わっていませんが、私の名前が亀美也と言いまして、その名前の中に入っている「亀」を用いています。亀というとすごく遅いイメージがあり、子供の頃はなんでこんな名前をつけられたのかな…と思っていましたが、「うさぎとかめ」の童話にもあるように、亀は目標を決めたら一歩一歩確実に前に進んで行って、最後にはやるべきことを成し遂げることができる動物だと思いますので、今はとても気に入っています。今回は亀の甲羅の部分に月と火星が描かれていて、これから有人宇宙開発が目指していかなければいけないものすべて全て入っています。前回と今回で、ミッションに臨む姿勢は変わっていないので、同じ亀のモチーフを選ばせていただきました」

ー様々なミッションの中で、特に楽しみにしていることや、培ってきた技術・知見を活かしたいと思っていることは何ですか?

「個人的に一番楽しみなのはHTV-Xでしょうか。私がISSにいるときに飛んできてくれたら最高です。初号機は地上にいるときに一部の試験に立ち会ったり審査会に参加したりして、作っていく過程を全て見ることができました。それが宇宙ステーションに到着したら涙が出てしまうかもしれません。HTV-Xのチームの方々には「どんな写真を撮って欲しいか」とリクエストを聞いています」

ー1回目の経験があったからこそ今回のミッションで生かせることは何ですか?

「1回目は分からないことだらけでしたが、今回は経験があるので、打ち上げ計画や実験計画を見た時点で、どの部分が忙しくなりそうか、余暇の時間がどれくらいありそうかなどを想像できるようになりました。そのため今回は、決められたこと以外にも付加価値を与えるような活動ができればと考えています。2回目のミッションは、サポートしてくださる地上のスタッフはじめ、応援してくださる日本の皆さんへの恩返しとなるようなものにしたいと思います」

報道陣からの質問に笑顔で答える油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

ー油井さんがフライトおよび訓練で経験された3つの宇宙船(ソユーズ、スターライナー、クルードラゴン)の違いについて教えてください。

「ロシアのソユーズは、長い期間にわたって何度も飛んでいる宇宙船ですので信頼性があります。古いシステムを残しつつ、少しずつ新しいシステムを取り入れて、テストをしながら改良し、能力を向上させている点は大変興味深いと感じています。ボーイング社のスターライナーは、テストパイロットの運用思想がよく表れた設計だと感じます。手動で多くのことができ、もし自動の機構に不具合が起きても、手動で動かせば対処できるというところが利点なのですが、同時に難点でもあります。手動でやるためにはどうしても高い訓練が必要になり、スペシャリストがいなければ飛ばせないということになるからです。スペースXのクルードラゴンは高度に自動化されており、地上が宇宙船をコントロールし、宇宙飛行士は状態をモニターするというかたちです。タッチパネルで操作するので、スマホのような感覚です。これらはどれが正解ということではなく、設計思想による違いなので、もし日本が独自の有人宇宙船を作るとなった場合を考えると、それぞれ設計思想が全く異なる宇宙船を見られたのは良かったですし、日本の運用にあった宇宙船への助言もできるのではないかと思います」

ーミッション期間中に、油井宇宙飛行士が船外活動を行う予定はありますか?

松崎インクリメントマネージャ「船外活動については、どのクルーがアサインされるかはまだ計画として上がっていません。ただ、油井さんの方は船外活動に備えて日々訓練中と伺っていますので、いつアサインされても大丈夫かと思います」

油井宇宙飛行士「訓練はすべて終わっています。訓練時の、教官や地上でサポートしてくださる方の印象も良かったと自負していますので、機会があればやりたいと思っています。特に、日本人の宇宙飛行士が船外へ出て、「きぼう」関連のメンテナンスを行ないましたとなれば、私としてもやりがいがありますので、そういうタスクができればいいなと思います。ただ、機会があってもなくても、できることをしっかりやって備えておくことが大事だと捉えています」

ー余暇の時間に写真を撮りたいということですが、宇宙から写真を撮ることは、人工衛星でも可能になっているかと思います。それを人間が撮ることで生まれる付加価値は何だとお考えですか?

「人工衛星の写真と違い、人間が撮った写真にはそこで感じたことを添えることができます。前回のミッションで、日本列島を東北地方から南側へと斜めに撮った写真に「日本が、力強く駆ける馬のように見える」と添えてSNSに投稿したところ、見た方が励まされた、パワーをもらったというような反応をしてくださいました。機械が撮った写真と人間が撮った写真、そこに感じたことを加えるのには、全く違う価値があるのだろうと思っています。また、そこにさらにデータを加えると、もしかしたらもっと意義のある活動ができるのではないかと思っていて、衛星地球観測コンソーシアムの方も写真のコラボレーション企画を考えてくださっているところです」

報道陣からの質問に答える油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

ー日本の民間企業アイスペースの月面着陸への挑戦についての受け止めと、ご自身の月への思いを教えてください。

「民間主導でやっていることはすごいことだと思います。私自身、実験の様子を見る機会がありましたが、ここまでできるのだなという驚きがありました。国民が収める税金の一部が予算に充てられる政府機関と違い、民間企業は効率的に挑戦的なミッションを進めることができます。そこは本当に驚いていますし、ぜひ成功してほしいと思います。アイスペースの月面着陸にも非常に期待しています。私自身も月に行きたいという気持ちはありますが、55歳という年齢を考えると、私の役目は自身の知見を若い宇宙飛行士に伝え、育てることだと思います。若い人たちが月で活動して成功することで、日本の方々に勇気を与えられるのではないかと思います」

ーポストISSの時代に向けて、ISSへの思いと、どう橋渡ししていきたいかを教えてください。

「ポストISSについては各国がまだ検討中の段階で、何が最適かといった答えが出ているわけではないという認識です。ただし、開発期間が必要になるので、早急に次の地球低軌道利用を考える必要があります。日本だけでなく、ヨーロッパもロシアもアメリカもカナダも、それぞれの宇宙機関がISSで得た知見を出し惜しみせず、チャレンジする民間企業に提供し、そのリソースを活用して早く新しい宇宙ステーションを作ることが重要ではないかと思います」

ー未来を担う子供たちにどんなメッセージを伝えたいですか?

「子供たちにとって宇宙飛行士はすごい人に見えているかも知れません。けれど、もしここに小学生の私がいて、他の小学生の子供が私を見たら、すごくも何ともない子供に見えると思うのです。ただ、私は宇宙が大好きで宇宙に関しては、余暇の時間があれば自分で勉強し、頑張ることを続けてきました。それは、好きだからこそ続けられたことなのですが、少しずつ成長をして、最初に宇宙に行きたいと言ってから35年かけて宇宙に行き、また10年かけて2回目のミッションに臨みます。この、少しずつ頑張る、好きなことを頑張るということが、自分の将来に大きく返ってくるということを信じてほしいと思います。好きというのは、もう才能の一部なので、その好きという気持ちを大事に頑張ってほしい。そうすると、自分の未来は開けるという点を強調したいなと思います」

油井宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)

「本日はお集まりいただきありがとうございました。そして、素晴らしい質問をたくさんいただき、感謝しております。私は日本も、日本の国民の皆さんも大好きですし愛しています。そういう日本が大好きな私が、宇宙で頑張っている姿を見ていただくことで、皆さまにも日本を好きになっていただいて、誇りを持っていただいて、明るい未来を描いて頑張っていただきたいと思います。お互いに明るい未来のために頑張っていきましょう」

意気込みを込めてガッツポーズする油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

 

説明会および会見には多数のメディアが参加し、他にも多くの質問が寄せられました。また会場の模様は、JAXAの公式YouTubeチャンネルでもライブ配信されました。見逃した方は、こちらでアーカイブ配信されていますので、ぜひご覧ください。

※本文中の日時は全て日本時間

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