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油井宇宙飛行士活動レポート&ニュース
油井宇宙飛行士活動レポート&ニュース
2025.08.06

大西卓哉宇宙飛行士と油井亀美也宇宙飛行士による引継ぎ式および軌道上記者会見が行われました。

8月2日に打上げられたクルードラゴン宇宙船運用11号(Crew-11)に搭乗した油井亀美也宇宙飛行士が、同日、国際宇宙ステーション(ISS)に到着。第73次長期滞在クルーとしてISSに滞在中の大西卓哉宇宙飛行士と宇宙での再会を果たしました。大西宇宙飛行士は、8月7日にISSからの離脱が予定されていますが、それまでISSには、2人の日本人宇宙飛行士が同時滞在します。これを受け、8月4日に大西卓哉宇宙飛行士と油井亀美也宇宙飛行士による引継ぎ式および軌道上記者会見が開催されました。

軌道上記者会見の様子(Image by JAXA)

大西宇宙飛行士と油井宇宙飛行士による引継ぎ式

式の冒頭、まずは大西宇宙飛行士が自身のミッション期間を振り返り、挨拶を行いました。その中で大西宇宙飛行士は、多忙な日々であったものの、数々の重要なミッションをクルー全員で乗り越え、安全に過ごせたことを嬉しく思っていると語り、自分自身にとっては、約3か月の間、ISSの船長を務めたことが最も大きな経験であったと述べました。そして、この大役をいただけたのは、これまでにJAXAの先輩宇宙飛行士たちが築き上げてきた信頼や、日本の「きぼう」運用、HTV(こうのとり)による物資補給といった多大な貢献の結果であるということを強調し、その築いてきた信頼の上に、少しでも自分が信頼を積み重ねられればという想いで船長を務めてきたと語りました。また、これが次世代の米田宇宙飛行士や諏訪宇宙飛行士といった新たな宇宙飛行士の道を切り開くことにつながると信じていると述べました。

大西宇宙飛行士がタスキを油井宇宙飛行士に引き継ぐ様子(Image by JAXA)

その後、大西宇宙飛行士は、自身が掛けていた「タスキ」を外し、油井宇宙飛行士に引き継ぎました。タスキを受け取った油井宇宙飛行士は、「重いですね。重力はないけど重いです」とコメントし、大西宇宙飛行士が素晴らしい任務を果たしてくれたからこそ、その仕事を引き継ぐことの重さを感じると述べました。また、このタスキには、日本がこれまで積み上げてきた有人宇宙開発の歴史、宇宙開発に携わってきた方々の期待、そして応援してくれた方々の思いが詰まっていると感じていると語りました。

油井宇宙飛行士は、これから始まる自身の長期滞在において、大西宇宙飛行士の仕事の良い面を受け継ぎつつ、自身の良い点も出しながら進めていきたいと意気込みました。そして、日本の皆さんがISSでの活動を見て、「日本は素晴らしい」「すごい力を持っている」「自分たちの未来は明るい」と思えるような、明るい話題をたくさん届けたいと抱負を述べました。

さらに、あと数日で地球へ帰還予定の大西宇宙飛行士に、やり残したことや、もっとやりたかったことがあるかと質問。これに対し、大西宇宙飛行士は4か月半の短い滞在だったことを踏まえ、2つの心残りを挙げました。まずは、目標だった船外活動が達成できなかったこと。しかし、船長としての任務遂行、そして仲間の宇宙飛行士2人による船外活動成功を通じ、チーム一丸で第73次長期滞在の前半を安全に遂行できたことには非常に満足していると述べました。また、前回滞在時のHTV5(宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機)に続き、今回の滞在で到来の可能性があったHTV-X(新型宇宙ステーション補給機)も見られなかったことが、もう一つの心残りだと述べました。

この補給機に関する大西宇宙飛行士のコメントを受け、HTV5のキャプチャー経験がある油井宇宙飛行士は、自身の滞在中にHTV-Xが到来すれば、割り当てが未定でも積極的にキャプチャー任務に携わりたいと意欲を見せました。そして、その機会を通じて、日本の宇宙開発に対する信頼をさらに高め、日本の力を世界に理解してもらいたいと考えていることを述べました。

思いを語る大西宇宙飛行士と油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

大西宇宙飛行士と油井宇宙飛行士による記者会見

引継ぎ式の後、東京とISSをつないで、メディア関係者と両宇宙飛行士との質疑応答が行われました。

記者の質問に答える油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

―油井宇宙飛行士は10年ぶりにISSに到着されましたが、そのご感想をお聞かせください。また、大西宇宙飛行士はどのような気持ちで油井宇宙飛行士をお迎えになり、最初にどのようなやり取りを交わされたのでしょうか?

油井:「ISSに到着したときは「帰ってきたな」と感じました。あまり変わっていない部分と便利になっている部分とがありましたが、やはり一番大きな感動は大西さんが迎え入れてくれたことです。すごく嬉しかったです」

大西:「ISSはとても閉ざされた世界なので、新しいメンバーが来ること自体が大きなイベントでワクワクすることなのですが、今回はその中に、2009年に宇宙飛行士に選ばれて以来、共に切磋琢磨してきた油井宇宙飛行士が加わっているということで、喜びもひとしお、ワクワクも一段階増したような状態で迎えました。実際に再会した際には、お互い言葉にならないほどで、しっかりと抱き合い、「ようこそ」くらいしか言った記憶がありません。お互い万感の思いでその瞬間を迎えたように思います」

―油井宇宙飛行士も大西宇宙飛行士もISSに2人で滞在した際には、何か一緒にしたいと話しておられましたが、2人でしたいことがもしお決まりでしたら教えてください。

大西:「ISSでの再会前からSNSなどで我々自らハードルを上げすぎてしまったなと思っています(笑)。いざ会ってみると、実質3日間しか一緒に滞在する時間がなく、引き継ぎもいっぱいあるので、かなり忙しくなりそうです。なので、その引き継ぎの合間を縫ってできることがあればという前提ですが、例えばこの後、いろんな映像を一緒に収録しようかなと思っています」

油井:「写真コンテストなんかはいいかなと思っています。2人で日本の写真を撮り合って、それをSNSにアップして、どちらが良かったか、みなさんに判断していただくと面白いかなと思っています。2人で髪を切り合うというのも考えたのですが、お互いに予防線を張りすぎて(笑)私も短くしすぎましたし、大西さんも切ったばかりなので、それはちょっとできなそうですね」

―大西宇宙飛行士はアクシオム・スペース社の宇宙飛行士と同時期に滞在されていましたが、ISSへのアクセスや国籍などの多様化について、前回の滞在と比較して違いや感想について教えてください。

大西:「前回のフライトは2016年で約9年前になりますが、その当時はまだ民間のミッションでISSを訪れるということは、その枠組み自体がありませんでした。
それを考えると、この9年で本当に大きく変わったなという実感があります。民間会社のミッションとは言え、その構成メンバーは、元NASAの宇宙飛行士を筆頭に、ハンガリー、ポーランド、インドという3つの国の宇宙飛行士がそれぞれ国を代表して参加しているミッションだったので、2030年に退役を控えているISSのその先の、民間によるISS時代に向けた「先鞭」となる重要なミッションだったように思います。1人1人高いモチベーションで来ていましたし、限られた2週間という短い期間の中でさまざまな科学的ミッションに取り組む姿を見て、新しい時代の到来を感じました」

―油井宇宙飛行士は1回目のISS滞在時と比べて地球の見え方に変化はありますか?また変化しているとするとどのような違いがあったか教えてください。

油井:「宇宙から見た地球は本当にいつ見てもきれいで素晴らしく、1回目も2回目も本当に変わらずきれいだなと思いました。ただ私自身、地上での環境が変わってきているのはニュースなどを見て知っているので、心理的な目で見ると、地球がちょっと違って見えるというところはありましたかね。ですが、ISSの文化である国際協力の力は、そういった状況を変える力を持っていると思うので、私がここでしっかり活躍し、国際協力の中で頑張っているところをお見せすることで、世界の人々に協力することの素晴らしさを伝えられれば、心理的に見ても美しい地球に変わっていくのではないかなと思いながら地球を見ています」

報道陣からの質問に答える大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

―ISSで4か月半を過ごした大西宇宙飛行士から油井宇宙飛行士への、最近のISSについての注意点はありますか?また油井宇宙飛行士からこれから地上へ戻る大西宇宙飛行士にかける言葉はありますか?

大西:「私たちの前回のフライトから、この9年10年の間にだいぶ変わったなと思うことの1つは、科学実験の実施方法です。プラットフォーム化がかなり進んでおり、定常的に行っている実験は、宇宙飛行士の手を介さずに地上から遠隔操作でできるようにシステムが整ってきています。実際に宇宙飛行士が実験に携わる機会は、補給機がISSに来てドッキングしている約1ヶ月の短期間に集中し、ワークロードも補給機のタイミングに合わせてピークが立つようなスタイルに変わってきているのが前回との違いかと思います。油井さんの滞在中には、補給機がいくつか来ると思うので、その時期は体調管理も含めて気をつけながら頑張っていただきたいと思います」

油井:「たくさん補給機が来ますので、頑張ります。大西さんはこれから地上へ戻られますが、まずは少しゆっくり休めるといいなと思っています。その他では、ISSでの生活や活動は、興味のある方は見てくださっていますが、もっと幅広い方々に知っていただきたいので、ポストミッションでも是非、頑張っていただきたいです。あとは船長としての経験を若い宇宙飛行士に伝えていただいて、日本の宇宙飛行士が世界で活躍できるように支援していただきたいなと思います」

―ISSは2030年に運用が終了になると聞いています。大西さんのSNSを日々拝見しておりますと、ISSのメンテナンスが大変そうにも見えますが、お2人の実感として、ISSを使い終えるのはまだもったいないと感じられるのか、そろそろ寿命だと感じられるのか、率直なところをお聞かせください。

大西:「メンテナンスに関しては、前回のフライトと比べて増えたという印象はなく、前回もたくさんありました。宇宙環境というのは厳しい環境なので、地上に比べると特に電子機器などは壊れやすく、人間が宇宙で活動していくうえでは、今後どこで活動をするにしても、メンテンナンスはおそらくそれなりの頻度で発生するものだと思っています。ISSがまだ使えるかということに関しては、個人的にはまだ使えると思っています。ただしそれが本当に最適な解かという面では、これから先、地球低軌道の利用をどんどん民間に渡し、民間の宇宙産業をもっと活性化させていくという社会的な大きな流れを見た時には、ISSの社会的な役割というのは終わりに近づいてきたのだろうと、自分の中ではそのように捉えています」

油井:「大西さんがほとんど全て言ってくださいましたが、私がひとつ足すとすれば、地球低軌道の活動は途切れさせることのできない重要な活動だと思うので、ISSの引退が見えてきた頃には、民間の新しい宇宙ステーションが出来上がっているようにしないといけないと感じます。そこの引き渡しが今日のタスキリレーのように上手くいくようにする必要があると思っています」

―今回の滞在は最後の滞在となる可能性もありますが、お2人にとってISSはどのような存在でしょうか?

大西:「ISSは私自身とても愛着のある場所です。サムエル・ウルマンという詩人の作品で、「青春というのは、人生のある時期ではなく、心の持ち方をいう」というような言葉があるのですが、それにあやかって、年甲斐もなく青春という言葉を使わせていただくとすると、ISSは私が宇宙飛行士として青春の全てをかけた場所で、とても特別な存在です」

油井:「ISSもそうですが、日本のモジュール「きぼう」自体が本当に私自身の心の「希望」でもありました。そして、日本の方々にとっても「希望」であって欲しいと思っています。おそらく、今回が最後のISS滞在になりますが、皆さんに希望を与えられるようなミッションにして、私が感じたこの希望を日本の皆さんにも感じて欲しいなと思っています」

―ISSから油井宇宙飛行士の故郷である長野県川上村は見えましたか?また故郷の人たちにどのような思いを伝えたいですか?

油井:「ISSに来てから2日しか経っていないので、川上村をじっくり見る機会はまだないのですが、これからの長期滞在の中でしっかりと見て、そして写真も撮りたいと思っています。川上村を見るといつも思うのは、特にこの夏の時期は、とても忙しく仕事をしている方が多いので、その方々を思いつつ、私自身もしっかり仕事をしなければということです。きっと川上村の皆さんも応援してくださっていると思います。私も頑張りますので、お互いに頑張りましょうというのが、私からのメッセージです」

大西宇宙飛行士、油井宇宙飛行士による記者会見の締めくくりの言葉

大西宇宙飛行士、油井宇宙飛行士は、メディア関係者からの質疑に答えた後、最後にそれぞれ挨拶を行いました。

大西宇宙飛行士
「同期であり同僚であり友人でもある油井宇宙飛行士と、このような形で共同記者会見ができたことを非常に嬉しく思います。私はあと2日でISSを離れることになります。いくつか心残りはありますが、私の後を引き継いでくださるのが油井さんということで、全く心置きなくISSを離れることができると思っています。この後、安全に帰還して、地上から油井さんのミッションを応援していきたいと思っているので、ぜひ日本の皆さんも油井さんを応援いただけると嬉しいです。最後に、HTV-Xの地上管制チームが着ている「チームジャケット」を油井さんにプレゼントします。私が地球から持ってきたものですが、もし油井宇宙飛行士の滞在中にHTV-Xが来たら、ぜひこれを着て頑張ってください」

大西宇宙飛行士からHTV-Xのチームジャケットをプレゼントされる油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

油井宇宙飛行士
「ありがとうございます。大西さんからの思い、HTV-Xチームからの思いもしっかりと受け取りました。大西さんが非常に素晴らしい任務を果たしてハードルを上げてくれたので、私自身プレッシャーはあるのですが、皆さんの期待に応えられるように頑張ります。私がここで頑張って、一等星のように輝くことで、日本の力をひろく知っていただけると思います。そして、それが日本の皆さんの希望になり、世界の希望にもなると信じて、これから一生懸命頑張っていきたいと思います。引き続き、応援のほど宜しくお願いいたします。今日は本当にありがとうございました」

手を振る大西宇宙飛行士と油井宇宙飛行士(Image by JAXA)

この引継ぎ式および軌道上記者会見の様子は、JAXA公式YouTubeチャンネル「JAXA Channel」にあるアーカイブ動画でご覧いただけます。

国際宇宙ステーション(ISS)に同時滞在中の JAXA大西卓哉宇宙飛行士と油井亀美也宇宙飛行士による 引継式および軌道上記者会見(28分50秒)

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