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JAXA古川聡宇宙飛行士による帰国後記者会見

約199日間宇宙に滞在した古川宇宙飛行士が帰還後のリハビリを終えて一時帰国し、6月17日に長期滞在ミッションに関する記者会見を行いました。

帰国記者会見に臨む古川宇宙飛行士(Image by JAXA)

古川宇宙飛行士冒頭の挨拶(抜粋/要約)

「JAXA宇宙飛行士の古川聡です。本日はお集まりくださり、ありがとうございます。
私は、米国スペースX社のクルードラゴン宇宙船に搭乗した4人目の日本人宇宙飛行士として、運用7号機(Crew-7)にて、昨年8月にケネディ宇宙センターから打上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在ミッションを開始し、今年3月に約199日間のミッションを終え、地球に無事帰還しました」

※この後、第69次/70次長期滞在における軌道上での活動成果、古川宇宙飛行士より説明
参考資料:古川宇宙飛行士第69/70次長期滞在軌道上成果

帰国記者会見の会場の様子(Image by JAXA)

質疑応答(一部)

Axiom Mission 3のクルーと共に仕事をしたという話がありましたが、JAXAからISSへ行かれている宇宙飛行士として、民間の人たちと一緒にやった感想を教えてください。また、今後の国の機関の宇宙飛行士の役割は何だと思いますか?

「アクシオム3のクルーは4か国、違う国からの宇宙飛行士だったのですが、いずれもそれぞれの国の宇宙機関によって選ばれた宇宙飛行士で、ほぼ我々と同じ職業飛行士の仲間という感覚で接していました。
彼らが何か仕事をするときに、研究室のどこに何があるのか、我々の方が慣れていることもあるので、ものの配置を整えるなどの準備を手伝いました。例えば、アクシオム3で飛んできたトルコ人の宇宙飛行士が大統領との会見を「きぼう」から繋いで行うというので、慣れている私がカメラやマイクをセットしてサポートしました」

「今後に関しても、しっかり協力していくのだと思います。例えば、国際宇宙ステーションにお招きする場合は、クルーが住み込みで働いている研究室にゲストが来て、同じように住みながら研究、実験をしていくというのが現在の形ですので、より慣れている人がその支援をする、今回のアクシオム3と似たような形になるのかと思います」

前回の若田宇宙飛行士の滞在のときには様々なトラブルに見舞われたと聞いています。今回、古川さんの時もトラブルはあったのでしょうか?もしあれば、どういった内容で、どのように乗り切ったのでしょうか?特になければ、トラブルを未然に防ぐために心掛けていたことを教えてください。

「細かいトラブルや予定通りにいかないことはありました。一例としては、配線を繋いで機器をセットしてもコマンドが通じない、映像が見られないということがありました。しかし、地上の仲間がどこに問題があるとその事象が生じるのかを解析し、疑いのあるところを見つけ、そこを私が実際にものを取り替えたりすることで解決しました。このように、地上の仲間と協力することで乗り切ることができたと思っています」

「心掛けたこととしては、私が宇宙で行うことは研究者やエンジニアが何年も時間をかけて準備したことなので、トラブルなくしっかりやりたいという思いで、前日の夜や当日の朝に手順をレビューして全体像を把握し、一つ一つの作業のイメージトレーニングをして臨みました。また、少しでも疑義があれば質問し、明らかにして地上の仲間と私が同じ認識にあるということを確認しながら実施するようにしました」

12年ぶりに宇宙に行かれたということで、前よりも最先端の実験をされたと思いますが、環境の変化や印象的だった実験を教えてください。

「ISSの構造体自体は変わっていないのですが、通信速度が速くなっていて、より効率的に実験ができるようになったと感じました。例えば、細胞が重力を感じるとどうなるのかを調べるために使った共焦点顕微鏡は、12年前当時は地上でのみ使われていましたが、今回は地上からリアルタイムで操作して宇宙でも使うことができ、観察可能になっていました。実は、この顕微鏡が、操作してみると思ったより不安定で、観察対象が上下方向に動いてしまうことが分かり、私の提案で、その場でテープで固定して観察することができました。これにより、上下に動いて焦点が合わず観察成果が得られないという問題点を解決できました。このように地上の仲間とリアルタイムで意見を出し合いながら進めていったのが印象的でした」

ライブイメージングシステム(COSMIC)からCell Gravisensing実験 Run2のサンプルを取り出す古川宇宙飛行士(Image by JAXA/NASA)

12年ぶりにISSへ行かれましたが、特に生活用品について、最初のときにはなくて不便だったけれど、今回はあって快適に過ごせたというものがありましたら教えてください。

「体の衛生を保つものが進化したと感じました。今回は、地上にもあるような顔や体を拭くシートなどがあり、使ってみましたがとても快適でした。宇宙の微小重力では、地上のように水滴が上から下に落ちずに四方八方に飛び散るためシャワーを浴びられませんが、そのシートを使うとスッキリして感覚的に衛生が保たれていると感じました。本当に開発された企業の皆さまのおかげだと思います。今後は、多くの方が宇宙へ行かれる時代だと思いますので、滞在をより快適にしていくことも重要だと思います。そういう意味で、今ある技術を活かしながら、地上でもより良いアイデアがありましたら、ぜひ宇宙にもそれを届けていただけたら嬉しいなと思います」

Int-Ball2について質問します。古川さんのミッション報告の中で、Int-Ball2は「安定して動いていて頼もしかった」と仰っていましたが、実際に宇宙飛行士の作業をInt-Ball2は撮影したのでしょうか。また、ISS内でのロボットとの協調作業、自動化など宇宙飛行士の作業負荷を下げる取り組みを教えてください。

「Int-ball2は様々な写真やビデオを宇宙飛行士の代わりに撮影してくれる船内のドローンロボットで、現在、実証を進めています。Int-Ball2のちょうど真ん中にある、鼻の位置にカメラがあります。今回は、他の仕事をしている時にその様子を撮影するということはなく、実証中に撮影した映像を地上に送信していました。地上から管制員たちがコマンドを送り、Int-Ball2が動いていたのですが、現場で実際に仕事をしている者としては、今後は「右側からちょっと遠景で撮って」「手元を詳しく見たいから左側から寄って撮って」といえば自ら移動して、その通りに撮ってくれるといいなと思います。そういったものがあると嬉しいということをエンジニアたちには伝えていて、その実現に向けて色々考えてくれているのではないかなと期待しています」

Int-Ball2についての質問に答える古川宇宙飛行士(Image by JAXA)

小中学生との交信をされたとのことですが、若い世代と話されて、興味関心やものの考え方などで気付いたことがあれば教えてください。また、若い世代を宇宙に引き付けるためには、ご自身としてどう活動していきたいかというところも教えてください。

「様々な素晴らしい学生さんたちと交信をすることができました。例えば、自分が住んでいる地域の特性を活かし、宇宙食を作ろうと試みている中学生や、宇宙にすごく詳しくて、天文宇宙検定をお持ちの小学生など、意欲的な方達と交信することができました。宇宙のこと、未知なることへ興味を持たれ、 様々なことを吸収していることに本当に感激しまして、私の方が元気をもらったくらいでした。彼らの世代はきっと月に定住をし、火星でのミッションも行うと思うので、ぜひ頑張って欲しいです」

「私自身の次世代への活動としては、国際宇宙ステーションへの長期滞在という、とても貴重な経験をさせていただいたので、そういったことをお伝えし、興味を持ってもらうきっかけになったら嬉しいなと思います。宇宙をあまり知らない方々が興味を持つきっかけになってくれたら嬉しいですし、また、もともと詳しい方々とはさらに対話を重ねて行けたらと思いました。若い世代の皆様の柔らかい頭なら、発想がさらに広がっていくのではないか、と思っています」

月探査に向けて地球低軌道とは違った課題があると思いますが、古川さんご自身の考える課題を教えてください。

「一般的な事ではありますが、地球周回軌道と月との違いで言うと、放射線環境が月面の方が過酷になります。月では放射線の影響を詳しく調べる必要があると思います。また、月の岩石が隕石などに砕かれてできた細かな砂のレゴリスを吸い込むと、健康に影響を及ぼすかも知れません。月面で活動したときに、宇宙服やローバーについたレゴリスを完全に遮断できない場合、基地の中にどのように持ち込むのか、健康をどのように維持するのかの研究も必要だと思っています」

宇宙でやり残したことはありますか?

「自分としては、やりきったと思っています。強いて言うならば、オーロラの撮影をもう少ししたかったと思っています。オーロラが綺麗に出ているタイミングと自由時間が合わなかったので。その他は、自分が考える中では、できる範囲はやりきった、と思っています」

笑顔で質問に答える古川宇宙飛行士(Image by JAXA)

古川宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)

「今後は、新たに選ばれた宇宙飛行士候補者をはじめ、次世代を担う皆さんの活動をサポートし、有人宇宙活動、国際宇宙探査をはじめ、世界に誇る日本の取り組みに貢献していきたいと考えています」

「本日は、皆様とお話しする機会をいただき感謝いたします。6月23日、日曜日には一般向けの報告会を東京で開催させていただきます。サテライトサイトでの中継もあると聞いております。皆様と再びお話できるのを楽しみにしております。本日はありがとうございました」

会見には、14社26名のメディアが参加し、他にも多くの質問が寄せられました。
その様子は、JAXA YouTubeチャンネルでアーカイブされていますので、ぜひご覧ください。

帰還に関するレポートは以下のトピックスで振り返ることができます。

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JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。