JAXA古川聡宇宙飛行士による帰還後記者会見
現在、米国ヒューストンで地球環境に慣れるためのリハビリを行っている古川聡宇宙飛行士が、4月24日に日本メディア向けのオンライン記者会見に臨みました。
古川宇宙飛行士冒頭の挨拶(抜粋/要約)
本日は皆様お忙しい中、朝から会見にご参加くださりありがとうございます。今年の3月12日、約199日の宇宙出張から地上に帰還しました。現在は米国テキサス州ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターでリハビリを行っています。
宇宙の微小重力環境に滞在していると、筋肉や骨量の減少など加齢に似た現象が加速して起こるとされています。今回、自分自身の帰還直後を振り返ってみると、軌道上でも運動機器を使ってトレーニングしていたおかげで、筋肉や骨量の減少は最小限に抑えられていました。一方、もし自分が80歳になったら…というのが想像されるくらい、体のバランスそして特に首や背骨、股関節などの柔軟性が落ちて、宇宙が老化の加速モデルになることを実感しました。それらは前回以降の経験から予想していた以上でした。現在はリハビリによっていずれの症状も消え、ほぼ飛行前のレベルに戻っています。
先日、盛山文部科学大臣とNASAネルソン長官の間で、「与圧ローバによる月面探査の実施取決め」の署名がなされました。本署名により、日本の得意分野での挑戦・貢献による国際協力で有人月探査が今後進むことをとても嬉しく思います。そして有人月探査を始めとした人類の新たな発見と発展が続きます。これに向け、2025年頃にISS長期滞在が予定されている油井宇宙飛行士、大西宇宙飛行士をはじめ、JAXAの宇宙飛行士および訓練中の宇宙飛行士候補者に私の経験を伝え、バトンを繋いで参りたいと思います。本日はよろしくお願いします。
質疑応答(一部)
—現在のリハビリについて、前回の宇宙滞在後に経験された内容と比べ、機器やメニューなどで変わったことがあれば教えてください。また先ほど、宇宙は老化の加速モデルだというお話がありましたが、元医師である古川さんが医学的な見地から感じることをお聞かせください。
まずリハビリに関しては、メニューの本質的なところは前回も今回も非常に似ています。ただ、13年前はNASAの支援によってJAXAが行っていたのが、今回はJAXA中心でリハビリを行い、JAXA独自のメニューも色々取り入れて行っていることが特徴的です。NASAやESAの宇宙飛行士と似たようなことをやっているのですが、細かいところで少しずつ特徴があり、違う運動をしたりしています。
前回の飛行の時を振り返ってみると、背骨や股関節などは確かに硬くなっていたと思いますが、今回の方が、それが著明に感じられていて、それは自分自身が歳を取ったことも影響しているのかもしれません。ですがリハビリで柔軟ストレッチ運動をすることによって飛行前の状態までしっかり戻っているので、人間の適応性というものはすごいなということを改めて感じています。
—宇宙は老化の加速モデルだというお話、大変興味深いです。先ほど話題に上がった関節や筋肉以外に、例えば神経系で言うと睡眠のリズムや消化器系、循環器系など、他の部分にも所見があれば、古川さんの経験をお伺いしたいです。
睡眠については、宇宙でも地上でもよく眠れます。私はどこでも眠れるのが特技なので、そういった意味では適した研究対象者ではないのかもしれません。消化器症状も元に戻ったという感覚です。少し変な話ですが、地上で尿意や便意を感じる時というのは、下に溜まってくるような感覚がありますが、宇宙の微小重力環境ではそれがあまりありません。下に溜まってくる感覚がないまま、地上の感覚と同じくらいの尿意や便意を感じた時には、蓄積していることが多いというのが経験的な現象なのですが、それが元通りの感覚に戻ったということになります。
—今回の長期滞在で1番印象に残った出来事と、前回と今回の滞在で感じた違いを教えてください。
印象に残ったのは、地上の仲間とチームワークで課題を乗り越えられたことです。地上では机に物を置くと重力のおかげで上下方向には安定してその場にあるのですが、微小重力環境では物を置くと左右方向には安定していても、上下方向では微妙に動いたりします。今回取り組んだ実験では、焦点を合わせて顕微鏡で見るようなケースがあったのですが、顕微鏡が動いて焦点が微妙に合わず困ってしまったことがありました。ですが、「手順書にはないけれど、こんな方法で固定したらどうだろう」という提案を現場から行い、地上の仲間と相談し、意見を出し合いながら固定することで、しっかり実験の準備をすることができました。こんなふうにチームワークで課題を乗り越えられたことが印象に残っている思い出です。
違いとしては、前回は国の宇宙機関が開発したソユーズ宇宙船で宇宙と地上を往復したのに対して、今回は米国の民間企業であるスペースエックス社のクルートラゴンで往復したことが象徴であるように、民間企業による宇宙開発が非常に進んでいるということが印象的です。実際、「きぼう」日本実験棟の中でも、民間企業が積極的に参加している実験・実証に私も関わりました。そしてもう1つ挙げられる違いは、国際協力で進む有人月探査に向けての様々な準備が進んでいることです。星出・若田両飛行士から引き継いだ次世代型水再生システムのための実証実験に関わり、それを終了させることができました。また、船内ドローンも登場しています。宇宙飛行士のまわりを自律飛行し、写真やビデオを撮影してクルーの時間を節約できるようにすることを目指しているものなのですが、そうしたものの実証を行う中で、有人月探査に向けた動きが1歩1歩進んでいるなということが今回強く感じられました。
—帰還したばかりで気が早いかもしれませんが、古川宇宙飛行士がご自身のキャリアを今後どう描こうとされているのかお伺いできますか。
まずはJAXA宇宙飛行士として、2025年頃にISS長期滞在が予定されている油井・大西両飛行士の飛行を支援したいと思います。さらに仲間に対して、この2回の宇宙飛行での私の経験、ノウハウをお伝えしたいと考えていますが、それ以上は具体的に予定やプランがあるわけではございません。まずは、JAXAでの仕事をしっかりやっていきたいと考えています。
—「宇宙の日」記念 全国小中学生作文絵画コンテストのテーマ「月、火星、その先へ…自分の惑星探査計画」に沿っての質問です。古川宇宙飛行士はどの惑星探査をしてみたいですか。また、宇宙を夢見ている子どもたちへのメッセージをお願いします。
私個人がどの惑星にでも行けるという条件であるならば、月に行きたいです。月から地球を見てみたいなと思っています。コンテストに参加された子供さんたちに対しては、宇宙に興味を持ってくれてとても嬉しく思います。自分の好きなことを見つけて、それに向けて色々勉強したり学んだりしていって欲しいと思います。そして、将来こんなことをしたい、こんな人になりたいというイメージを持って、それに向かって色々頑張っていって欲しいと思います。皆さんの夢が叶うよう応援しています。
古川宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)
皆様、会見へのご参加ありがとうございました。また、YouTubeをご覧の皆様、温かい応援に感謝いたします。
現在、ミッションを振り返ってのデブリーフィングを行っており、運用管制官、エンジニア、研究者たちと改善点などの議論をしています。 その後、どこかのタイミングで日本へ帰国してミッションのご報告をする機会があると思われます。その際、皆様にお会いできるのを楽しみにしております。本日はありがとうございました。
帰還後記者会見の様子は、JAXA YouTubeチャンネルにアーカイブがありますので、見逃された方はぜひご覧ください。
JAXA古川聡宇宙飛行士による帰還後記者会見
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