Reportレポート若田宇宙飛行士の活動レポート 33

若田光一宇宙飛行士の帰国記者会見

2023年3月12日に、約157日間の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在を終えて地球へと帰還した若田光一宇宙飛行士は、米国でのリハビリ等を経て、5月24日、帰国記者会見に臨みました。

帰国記者会見に臨む若田宇宙飛行士(Image by JAXA)

若田宇宙飛行士冒頭の挨拶(抜粋/要約)

「今回のミッションでは「世界が認め、求める和のリーダーシップ」をキーメッセージとして、クルーそれから地上管制局のチームの皆さんと力を合わせて、「きぼう」日本実験棟を活用して様々な利用成果を創出するとともに、ISSのアップグレード、人材育成、SDGsへの貢献といったミッションにも取り組みました。今回のミッションは、私のこれまでの宇宙飛行の中でも、最もトラブルが多かったミッションではありましたが、筑波の地上管制局の皆さん、インクリメントマネージャーやフライトディレクター、そういった皆さんの力と世界各国の地上の管制局、ISSの管理部門の皆さんのご支援を受けて、チームワークで数々のミッションを成功裏に完了することができたと思っております。今回5回目の宇宙飛行で累積の宇宙滞在期間が504日となりましたが、この間、支えてくださった皆様と、宇宙の素晴らしさを伝えていただいているメディアの皆様に感謝を申し上げます」

※この後、第68次長期滞在中の活動について、若田宇宙飛行士より説明
参考資料:若田光一宇宙飛行士 第68次長期滞在における活動成果

帰国記者会見の会場の様子(Image by JAXA)

質疑応答(一部)

ご自身初めての船外活動に挑戦されましたが、船外に出た時の印象、活動の感想などを改めてお聞かせください。トラブル時のお気持ちや状況などもお教えください。

「今回の経験を通して、やはり、有人宇宙活動の意義を感じました。想定外のトラブルが発生しても、地上とクルーの協力で乗り越えて進んでいくことができるのが有人宇宙活動の強み、それを感じました。また、最初の質問ですが、今回は幸運にもこういった機会を与えていただき、眼前に広がる美しい地域を見ながら、真空の環境の中で船外活動ができました。本当にこの仕事を続けてきて良かったなと思える瞬間だったと思います。国際宇宙ステーションの一番端に行き、「ここが本当に有人宇宙活動の果てなのだな」と思いながら作業しましたが、やはり、その先に広がっている星々、月、そういったものが、我々をさらに遠くの有人宇宙探査に導いてくれているような、そういう印象を持った船外活動でした」

今回のミッションは月探査に向けたひとつのステップだったように感じます。若田さんが月に対して思うこと、月のイメージなどをお聞かせいただけますか。

「月探査というものが、もうすぐそこまで来ているなということを実感しています。と同時に、今後、月探査を含めて活躍する機会があると思われる皆さんのためにも、今回の軌道上でのミッションは成功させなければいけないという強い思いで臨むことができたと思います」

「月は、やはり持続的に有人宇宙活動を展開していく時に、非常に重要なマイルストーンだと思います。地球低軌道から月、その先の火星、そしてその先へ…と我々は活動領域を広げていくと思いますが、月探査をすることによって非常に多くのことが得られますし、有人宇宙探査という目的以外に、宇宙活動を経済活動の場にするためにも、月は非常に重要な場だと、そういうふうな印象を持っています」

帰還されてからのリハビリで、前回の宇宙飛行時と比べて進化していることや、ご自身の身体への影響などがあれば教えてください。

「今回、私も歳を重ねていますので年齢がリハビリに影響するのではないかと思っていたのですが、生理対策の専門スタッフのアドバイスに基づいて、軌道上で毎日2時間程度の有酸素運動、筋力トレーニングをすることができましたので、実は帰ってきてからのリハビリへの影響はこれまでと大きな変化はなかったのかなと思います。帰還後、45日間のリハビリ期間が終わった後は、過去のフライトの時と同じように、宇宙飛行に行く前の状態まで体力が戻っていることを実感しています。ですがやはり、運動の仕方などリハビリの内容も少しずつ改良が進んでいて、より効率的に短い時間でリハビリができるような体制や手法が確立してきていることを感じています。有人宇宙飛行というのは、モノ作りのところだけではなくて、人間の体をどう安全に宇宙飛行させて、帰還後のリハビリでどう戻すかといった医学生理学的な技術も日進月歩で進んでいるなということを感じています」

民間企業による宇宙活動は、これからどういう展開になっていくと思われますか。

「今回搭乗したクルードラゴンは、かなり自動化が進んでおり、本当に次世代の宇宙船なのだなというのを感じました。それほど人間が介在しなくても、安全に確実に宇宙に行って帰ってくることができ、効率性や安全性が増しているのかなと思います。民間企業による宇宙船開発・運用が進むことで、もっともっと多くの方が地球低軌道そして、その先に行く機会が増えてくるのかなと思いますし、こういった活動が広がっていくことによって、より安全でなおかつ効率的な宇宙飛行というのが実現できるんじゃないかなと思っています」

手振りを交えながら質問に答える若田宇宙飛行士(Image by JAXA)

若田さんは、今後、宇宙を目指される意思はあるのでしょうか。

「過去の宇宙飛行後の記者会見で、毎回申し上げさせていただいていますが、私は生涯現役で頑張っていきたいと思っています。また、それぞれのフライトで毎回これが最後のフライトだと思って頑張ってきました。過去に宇宙飛行を経験した宇宙飛行士に求められているのは、若い世代の宇宙飛行士がさらに先のフロンティアに挑戦していく時に、日本に求められるシステムの開発・運用に貢献することだと思っています。自分が目標としている地球低軌道の持続的な発展、アルテミス計画に基づく月、火星探査への貢献、そして私の大きな夢でもある種子島から日本そして世界の人たちを送り届けられる宇宙往還機を打ち上げる、そういった目標に向かって自分ができることを進めていきたいと思っています」

ISSは2030年までの運用延長が決まっていますが、これまでにISSが果たした役割をどのようにお考えでしょうか。

「科学的な利用という観点からは、新しい医薬品の開発や新しい材料の開発、そういった日常の生活を豊かにするための技術や知見を生み出している点が非常に大きいところだと思います。それから、人類の有人宇宙活動を展開していく時に必要な技術実証の場としても非常に大きい成果を上げてきていると思いますし、これから月探査に向けてさらにその役割が広がっていくと思います。また、ISSというのは、民間企業が地球低軌道での経済活動に参入するための重要な足がかりを提供していると思います。そして、人材育成の観点からも非常に大きな役割を果たしていると思います。国際協力を通して、人類みんなが共有できる技術を生み出しているのが大きいと思いますし、その中に、アジア唯一のISS参加国として日本が重要な役割を果たしている、その意義は非常に大きいと思っています」

H3ロケットの打ち上げ失敗や民間月面探査プログラムでのランダー着陸失敗など、厳しい状況が続いていますが、若田さんはこのような状況をどう考えていらっしゃるでしょうか。

「やはり宇宙開発には失敗はつきものだと思います。失敗なくして成功というのはないと思います。どの国を見ても宇宙開発、その技術の開発に王道というものはなく、いかに失敗から教訓を得て、それをいかに次のシステムに反映していくか。そのPDCAを効率的にタイムリーに回していくことが重要だと思います。また、多くの国々の宇宙機の開発を見ても、失敗した時に一番多くの、見えてないところが見えてきているのかなと思いますし、失敗をきちんと教訓にしていくことを怠ったら前に進めないと思います。今回、いろんな不具合等がありましたが、多くの皆さんが期待してくださっていますし、JAXAはもちろんメーカーの皆さんもしっかりと前に進めるために取り組んでくださっているので、きっと国民の皆様の期待に応えてくれると信じています」

様々な実験を通して、日本の技術の凄さを感じられた点などがあれば教えてください。

「海外は宇宙輸送手段のところから有人宇宙活動を進めてきましたが、日本は宇宙環境利用の観点から活動が始まっていて、他の有人宇宙の先進国とは違うアプローチをしてきたと思います。そして、まさにその結果が国際宇宙ステーションでも表れているのかなと思います。「きぼう」日本実験棟には、微小重力だけではなく、1Gやその間の6分の1Gや3分の1Gの環境を模擬できる装置があり、宇宙探査、月探査、火星探査に向けた実験ができる能力を持っているのは、日本の強みだと思います。それから2000℃という高温の物質の密度や粘性といった材料の特性を測定できる静電浮遊炉の装置も日本しか持っていません。こういった世界最高水準の実験技術を備えた装置が海外からも非常に高く評価されているのを感じながら、訓練、そして軌道上での実験に参加させてもらいました」

若田宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)

「今日は長い時間に渡り、素晴らしいご質問をたくさんしていただきありがとうございました。ライブ配信をご覧いただいている方もありがとうございました。これまで日本の有人宇宙活動を皆さんに応援していただき、心より感謝しております。古川宇宙飛行士がまもなくISSへと飛び立ちますが、彼のミッションを地上で支え、そしてJAXAの若い宇宙飛行士たち、特に今後、月に降り立つことになる可能性が高い宇宙飛行士のミッションの大成功に向けて、私が経験させていただいたことをぜひ活用し、貢献していきたいと思っております。これからも皆様のご支援、応援をよろしくお願いいたします。今日は本当にありがとうございました」

会見には、18社26名のメディアが参加し、他にも多くの質問が寄せられました。
その様子は、JAXA YouTune チャンネルでアーカイブされていますので、ぜひご覧ください。

若田宇宙飛行士のISS滞在中の成果については、こちらでご覧いただけます。

帰還に関するレポートは以下のトピックスで振り返ることができます。

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