Reportレポート星出宇宙飛行士の活動レポート49

星出宇宙飛行士 回収船乗船記

12月3日(金)に行われた星出宇宙飛行士の単独記者会見の様子、ご覧いただけましたか?打ち上げから帰還まで、星出宇宙飛行士のミッションに改めて興味を抱いた方も多いのではないでしょうか?
そんな皆さんに今日は貴重なレポートをご紹介します。星出宇宙飛行士の帰還時、回収船に乗船したJAXAスタッフからその時の様子を伝えるレポートです。臨場感あふれる現場の様子、ぜひお楽しみください!

Crew-2カプセルから出てきた星出宇宙飛行士
Crew-2カプセルから出てきた星出宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA

みなさま、JAXAの『星出宇宙飛行士帰還中継』はご覧になられたでしょうか?
大気圏再突入の際に星出宇宙飛行士含めクルードラゴン宇宙船運用2号機(Crew-2)に乗っている宇宙飛行士たちが真っ赤に燃え盛るプラズマに包まれ地球へ帰還する様子、すごかったですね~
そして星出宇宙飛行士がカプセルから運び出され、その時の元気な姿を見てホッとされた方、日本の誇りを感じた方、喜ばれた方も多かったのではないでしょうか?
日本人として若田宇宙飛行士に次ぐ2人目の国際宇宙ステーション(ISS)船長として、日本人で最長(28時間17分)のEVA(船外活動)記録保持者として、そして1回のミッションで日本人最長の198日間宇宙滞在記録者として活躍した星出宇宙飛行士。
そんな星出宇宙飛行士が日本時間11月9日に地球へ帰還する際、今回もCrew-1に引き続き、多くのJAXAの職員がこのコロナ禍、国内外の舞台裏で昼夜問わず、星出宇宙飛行士が無事に帰還することについて問題ないか、安全の観点からの天候や機体に関する情報収集、みなさんに日本人宇宙飛行士の活躍を紹介するための広報などなど多くの作業をしていました。
その中、前回同様、星出宇宙飛行士を乗せたクルードラゴン宇宙船運用2号機(Crew-2)が着水するフロリダ州ペンサコーラには2名のJAXA職員が派遣されていました。
1人は星出宇宙飛行士の健康をミッションが始まる前からずっと管理しているフライトサージャンの速水先生。そしてもう1人は前回、野口宇宙飛行士の帰還時に回収船へ乗船していた私、山方です!(なんと、今回は現地から衛星携帯電話を使って着水直前の状況について生中継をしました!)
ということで、今回もCrew-1回収記に引き続き、Crew-2回収記を書いてみましたのでお楽しみください!

星出宇宙飛行士の回収に向かう速水フライトサージャン
星出宇宙飛行士の回収に向かう速水フライトサージャン ©︎JAXA
衛星携帯電話でフロリダ州ペンサコーラ沖(着水地点)から初の実況中継
衛星携帯電話でフロリダ州ペンサコーラ沖(着水地点)から初の実況中継 ©︎JAXA

■着水地点の様子
今回のCrew-2着水も前回のCrew-1同様、夜の着水、すなわち"ナイト・ランディング"でした。でも前回とどう違ったか?このあたりを紹介したいと思います。
前回のCrew-1回収時、回収地点は月夜で照らされていました。しかし、今回、回収地点へ向かうとき、はじめ、月は出ていたのですが(以下画像参照)、時間が経つにつれて、この月は水平線へと沈み、月明かりが全くない状況となりました。でもこれで良かったと思ったのは月が無いことで逆に星空がきれいに見えたこと。(実況中継でも述べましたが、回収地点へ向かう際、いくつもの流れ星が見えました!"星出"だけにシチュエーションとしてピッタリだったかもしれませんね!(笑))
そしてこの星が見えるおかげで回収船がどの方向を向いて進んでいるか、夜空にあるオリオン座やカシオペア座の位置を見ていることでわかりました。(カプセル回収時に船は180度向きを変えてクレーン側をカプセルに向けるのですが、その時に星座の位置が逆転する様子は暗くて指標となるものが無い中、なかなか興味深かったです。)
ちなみに、波も穏やかでしたが、前回に比べると若干風があったためか、揺れているような感じでした。
そして、今回、11月、ということもあり、海上の風も冷たかったです。(イルカはいませんでした。)

着水地点へ向かう際に回収船の進行方向に沈む月
着水地点へ向かう際に回収船の進行方向に沈む月 ©︎JAXA/NASA

■現場で再突入~着水はどのように見えていたか?
JAXAの星出宇宙飛行士帰還ライブ中継をご覧になっていた方々はNASA TVで暗視カメラや赤外線カメラなどなどの特殊カメラにより真っ赤に燃えながら再突入するカプセル、パラシュートが展開する様子、着水の瞬間などはっきり見えたことでしょう。
でも、実際の現場(私がいた回収船の船首)では前述したように月明かりも無く、真っ暗な状態だったため、これら一連のイベントは肉眼で捉えることはできませんでした...(^^;
ただ、真っ赤に燃えながら再突入する姿は肉眼で捉えることができました!(以下画像は回収船の船首からNASAのカメラマンが撮影した再突入時の様子と私が回収船の船首から肉眼で見た再突入の様子。実際にかなり遠くに見えていたことがわかるかと思います。)
実際にどう見えたか?
暗い夜空にゆ~っくりと赤い点から光の尾が少しずつ伸びていく様子が見えました。私と一緒に甲板上で再突入の様子を見ていたNASA及びSpaceXのスタッフも光の筋が暗い夜空に延びていくのを見て一同興奮していました。
ちなみに見えている方向(角度)として回収船進行方向、天頂を12時とした場合、上方2時くらいから1時くらいの方向に掛けてでした。それこそ、"あれ?この様子だと星出宇宙飛行士たちを乗せたカプセルは回収船の上を超えて行ってしまうのでは?"と思うくらいの位置に見えていました。
そして、しばらくすると(再突入が終わると)光の尾は消え、再び赤い点となり、そのまま見えなくなります。
なお、今回の着水は回収船よりも先に着水地点へ到着している高速船がサーチライト(かなり強力)を照らしていたため、前回のように緑色のライトの点滅はあまり見えませんでしたが、逆に着水地点に降りていくカプセルの機影を(豆粒ほどの小ささですが)見ることができました。

Crew-2カプセルが再突入する方向をサーチライトで照らす高速船(かなり望遠)
Crew-2カプセルが再突入する方向をサーチライトで照らす高速船(かなり望遠) ©︎JAXA/NASA
船首からスマートフォンで撮影したCrew-2カプセルの再突入(真ん中の小さな点)
船首からスマートフォンで撮影したCrew-2カプセルの再突入(真ん中の小さな点) ©︎JAXA/NASA

■効率化されていく回収作業
今回、星出宇宙飛行士たちを回収する際に野口宇宙飛行士のときと作業の流れが変わっているかどうか、ということが(職業柄)気になり、いろいろと観察していました。
やはりSpaceXはCrew-2ミッション期間中に民間打上げミッション"Inspiration-4"(インスピレーション フォー)のミッションを実施したこともあるのでしょう。差分は1回とは言え、今回のCrew-2回収作業の流れが非常にスムーズだと感じました。
例えばカプセルが回収船に引き上げられてからクルーが運び出されるまでの工程。もともと事前にリハーサルをしている、ということもありましたが、ハッチを開ける前にカプセル周辺の有害ガス有無を確認する工程やハッチを開けてからクルーの健康状態を確認し、運び出す流れの中で前回はところどころ手順を確認している様子が見られましたが今回はすべての工程が頭に入っているのか、それとも体に染みついているのか、淀みなく作業が進んでいる印象を受けました。
他にも回収後の作業として健康確認が終了し、ストレッチャー(担架)に乗った状態の宇宙飛行士を陸へ戻るためにヘリコプターへ寝かした状態で運び込む作業があるのですが、その際の作業も非常にスムーズだと思いました。

■帰還直後の星出宇宙飛行士の一コマ
今回、星出宇宙飛行士のフライトサージャンとして対応した速水先生。ヒューストンで日々星出宇宙飛行士の健康状態を常に気を掛けながらNASAの会議、国内で行われるJAXAの会議対応などなど非常に多忙な日々を過ごしていました。(Crew-1時の樋口先生も同様ですが。)
人、ましてや宇宙飛行士の健康を管理する、というのは精神的にもいろいろと苦労をされたのでしょう。
帰還直後の星出宇宙飛行士に会い、その際の一瞬の出来事ですが、これまでの努力が報われた、と後々感じたできごとがありました。
それは星出さんとのグータッチ。その気持ちを後日談として共有してもらえたので、みなさまにもお裾分けしたいと思います。(以下)
「カプセルから出てきた直後に星出さんより差し出されたグータッチはフライトサージャン冥利に尽きます。あー、このために自分は働いてきたんだ、と後から感じるようになりました。」
いや~素晴らしいですね!

帰還直後の星出宇宙飛行士と速水先生(右)のグータッチ
帰還直後の星出宇宙飛行士と速水先生(右)のグータッチ ©︎JAXA/NASA

帰還直後は"星出さんの健康に問題ないか確認しないと!無事にご家族のもとにお連れしないと!"と集中していてこんなことを感じる間も無かったところ、後からじわじわと来る感じ(笑)
十中八九、他の関係者たちもみんな同じように星出宇宙飛行士が無事カプセルから降り、ヒューストンに到着したことを受け、星出宇宙飛行士がご家族と無事会う姿を見て一安心したことでしょう。(特に今回は野口宇宙飛行士と星出宇宙飛行士の連続ミッション(約1年)がひと段落した状況ですので。)
以上、星出宇宙飛行士回収船乗船記、いかがでしたでしょうか?次回は若田宇宙飛行士の機会になると思いますが、また回収の様子をお届けできればと思います!

ポスター・プレスキット・ISS滞在中の活動成果をダウンロードいただけます。