【ISSリアルタイム交信】スペースJAPAN特別企画「超小型衛星ミッションに挑む!古川宇宙飛行士×学生トークセッション」を開催しました。
12月15日、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在中のJAXA古川聡宇宙飛行士と地上を結ぶイベント【ISSリアルタイム交信】スペースJAPAN特別企画「超小型衛星ミッションに挑む!古川宇宙飛行士×学生トークセッション」を開催しました。
Introduction:イベントの概要と参加者のご紹介
今回のイベントの司会進行はJAXA有人宇宙技術部門広報の柳田が担当。古川宇宙飛行士のISS長期滞在ミッションの1つとして実施される「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出ミッションの説明と、放出予定を数日後に控えている2つの衛星を紹介してイベントが始まりました。
地上では、放出する超小型衛星の開発に携わった高校生と大学生に加え、宇宙大好き芸人のきくりんさんがゲストとして参加。まずは、それぞれのご紹介です。
宇宙大好き芸人のきくりんさんは、天文宇宙検定2級を保有するほどの宇宙好き。機動戦士ガンダムというアニメ作品で描かれる宇宙の世界を見るうちに、宇宙に関心を持つようになったのだそう。今、特に注目しているのは固体燃焼実験装置を利用したFLARE実験だそうです。
続いては、超小型衛星の開発に携わった学生のお二人。
一人目は、「Clark sat-1」という超小型衛星の開発に携わったクラーク記念国際高等学校の吉田岳史さん。部活動として宇宙探究部に所属し、人工衛星の開発など宇宙に関わる授業も受けているそうです。
そしてもう一人は、「BEAK」という超小型衛星の開発に携わった東京農工大学の岡田枝恩さん。大学では、協働関係のあるJAXAの宇宙科学研究所を拠点に、大気圏突入システムに関する研究を行っているそうです。
さらに今回は、超小型衛生放出ミッションを紹介するイベントということから、その解説員としてJAXA有人宇宙技術部門の赤城も加わりました。
Part1:超小型衛星放出ミッションについて
いよいよここから、今回のイベント本編へと移ります。超小型衛星放出ミッションについては、過去にリードエンジニアとして放出ミッションに関わっていた赤城が説明を担当。関連資料の映像を交えながら、超小型衛星放出ミッションがどのような流れ、仕組みで実施され、ロケットで衛星を打ち上げる場合と比べた際に、どのようなメリットがあるのかといった概要を説明しました。
超小型衛星放出ミッションにおける3つのメリット
1.打上げ時の機械環境の条件緩和
衛星が搭載されたケースを緩衝材で包み、荷物としてISSに運ぶので、打上げ時のロケットから伝わってくる振動を緩和することができる。
2.フレキシブルな打上げ・放出機会
年間10回ほどの有人/無人の宇宙飛行の機会を利用してISSに運ぶことができ、運んだ後は様々なミッションのタイミングを見ながら放出機会が確保できる。
3.技術実証の場に最適
放出から1〜2年で寿命を迎えるため、早いサイクルで様々な技術実証ができ、人材育成の機会としても有効に活用できる。
また当時、3Dプリンターで作成した超小型衛星の模型をスーツケースに入れて持ち歩き、「きぼう」から放出できることを色々な場所で宣伝して回っていた自身のエピソードを語り、その甲斐あってか、今では年間のうちの約7割の放出機会を民間の事業者に移管し、ビジネスの機会として活用していただいていることを説明しました。
Part2:超小型衛星「Clark sat-1」と「BEAK」について
続いては、吉田さんと岡田さんが開発に携わった超小型衛星について、それぞれに説明をしていただく番です。
まずは吉田さんから「Clark sat-1」が、衛星の開発と運用を通して高校生が宇宙開発への興味関心や課題解決への達成に向けた生徒たちの主体性を育てるために、クラーク記念国際高校とSpace BD株式会社と東京大学の三者協働による宇宙教育プロジェクトというものの一環として開発された衛星であることが説明されました。
そして、宇宙環境問題の要因になっているスペースデブリに着目しており、放出後の運用では、衛星に搭載したカメラで撮影に挑むことも説明されました。
次に「BEAK」については、東京大学を中心に東京農工大学、東京理科大学、金沢大学、北海道大学、帝京大学、日本大学、豊田工業大学そしてJAXAが協力して開発をした衛星であることが紹介され、岡田さんがその模型を使いながら特徴説明を行いました。
さらに、放出後のミッションとして様々な技術実証実験が予定されていることを伝え、これらが将来の火星探査において計画されている、一度に広域情報の獲得を可能とする分散型の小型探査機への適用を視野に入れていることも説明されました。
また最後には、古川宇宙飛行士が「きぼう」日本実験棟のエアロックに、超小型衛星を搭載した放出機構を取り付ける様子が映像で紹介されました。
Part3:古川聡宇宙飛行士とのリアルタイム交信
超小型衛星放出ミッションと、その放出を待つ衛星の紹介を終えたところで、ISSの交信の準備もOKに。ついに古川宇宙飛行士とのトークセッションのスタートです。
まずは古川宇宙飛行士が近況を報告。約1ヶ月前にドラゴン補給船運用29号機(SpX-29)が到着し、運搬されてきた実験器具を用いてさまざまな実験を行なっていること、また、数日後に予定されている補給船の地球帰還に向けて、研究者が解析するサンプルの帰還準備を行なっていることなどを語りました。
その後は、吉田岳史さんにバトンタッチ。自身が開発に携わったClark sat-1に対する期待感や、今後のISSや宇宙における課題について、古川宇宙飛行士に直接、質問を投げ掛けました。
それに対し古川宇宙飛行士は、高校生の皆さんが自ら考えたメッセージや写真を宇宙から送るClark sat-1のミッションは、聞いただけでもワクワクしますと答え、今後の課題と捉えているスペースデブリの問題も、吉田さんのような若い世代の柔軟な発想で解決の道を切り拓いて欲しいと伝えました。
続いて岡田さんからは、高校生や大学生が衛星の開発に関わるようになった今、そういった学生にどんなことを期待しているか、ISSから地球を見た際にどのような気持ちを抱くかといった質問がされました。
これに古川宇宙飛行士は、学生時代の経験から得た知識や技能に、若々しく柔らかい発想を加えて、将来の日本や世界の宇宙開発を担う原動力になって欲しいですと回答。また、宇宙から見る地球に対しては、地球自体がひとつの生命体のように見え、人類もその一部である…という感覚になり、いつも自然に対する畏敬の念のようなものと共に眺めていますと答えました。
さらに、宇宙大好き芸人きくりんさんからの質問として、宇宙に居ることで、地球では思い浮かばなかったような発想が生まれることがあるかと問われると、その自覚はないものの、無重力という環境に応じて発想しているところはありますと答え、今、天井に見えているところでも、宇宙ではこうして足を置いた途端に感覚が入れ替わって、ここは私にとっての床になります、と逆さまになりながら解説しました。
そして最後に、吉田さんと岡田さんには、超小型衛星の開発を通して、自ら課題を設定し、その解決に向けて進んでいくという実社会でも役に立つ技能が磨かれていると思います。興味を持ってくださりありがとうございますとメッセージを伝え、YouTubeの視聴者にも、超小型衛星放出ミッション、そして宇宙科学に興味を持ち続けて欲しいと語りました。
学生のお二人にとって、これまで画面の向こう側にいる遠い存在、宇宙飛行士という憧れの対象であった古川宇宙飛行士と直接会話できたことは、とても有意義な機会として今後の活動の糧にもなったようでした。
なお、今回のイベントの様子は、JAXAの公式YouTubeでアーカイブ配信を行なっております。
また、イベント後の12月18日に実施されたClark sat-1とBEAKの放出については、こちらのページでご紹介しています。興味を持たれた方は、ぜひご覧ください。
なお、今後も古川宇宙飛行士との交信イベントを予定しておりますので、JAXA有人宇宙技術部門のWebサイトやSNSなどで情報をチェックしてみてください。
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