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JAXA古川聡宇宙飛行士の国際宇宙ステーションからの軌道上記者会見

記者会見に臨む古川宇宙飛行士(Image by JAXA)

9月14日午後7時20分頃(日本時間)より、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟において、古川聡宇宙飛行士の軌道上記者会見が行われました。

古川宇宙飛行士冒頭の挨拶(抜粋/要約)

本日は記者会見にお集まりくださり、ありがとうございます。私は、8月26日に米国フロリダ州NASAケネディ宇宙センターからスペースX社製クルードラゴン宇宙船で打ち上がりました。翌日27日に国際宇宙ステーションに到着し、本日で19日が経ちます。国際宇宙ステーションに来てからは、前回と比べて体が早くこの環境に慣れてきているなと実感しています。ただ、体液シフトのために顔が丸くムーンフェイスになっているのは前回と同じだなと感じています。

今回、私は「宇宙でしか見つけられない答えがあるから」というキーメッセージで、この「きぼう」日本実験棟の利用をさらに広げていくような仕事をしたいと考えています。具体的には、無重力環境を利用して三次元で細胞を培養する技術の開発、宇宙での火災の安全性に関わる実験、あるいはInt-Ball2という、自分でISS内を飛び回って写真を撮ったり、宇宙飛行士を補助するようなことを目指している、丸い小さな船内ドローンの技術実証を行ったりします。さらに、主にアジア太平洋地域の学生さんの教育イベントとして、第4回「きぼう」ロボットプログラミング競技会やアジアントライゼロGの実験実施を計画しております。様々な実験やイベントがありますが、1つずつ確実に実施していきたいと思います。本日はよろしくお願いいたします。

質疑応答(一部)

2011年の1回目の宇宙飛行の時は宇宙酔いに悩まされたと仰っていましたが、今回はどうでしょうか?それと、宇宙の微小重力空間における感覚を体が覚えていたかどうか教えてください。

今回、宇宙酔いはほとんどありませんでした。打上げから数時間は、頭を早めに動かすと少しだけ気持ち悪さを感じましたが、それ以外はほとんどなく、快適でした。前回は1週間ほど苦しみましたが、それがなくて自分の事ながら非常に驚いています。

体の感覚については、例え話をさせていただくと、皆様も、従来住んでいる場所と全く環境が違う日本のある場所や外国でしばらく過ごされた後、一度家に戻ってから再びその地に行くと、こういう感覚だったな…ここでの生活はこうだったな…というのを割と早く思い出す経験がおありかもしれません。それと似ているものだと思います。逆立ちしている時に頭がちょっと重くなるだとか、自分が天井だと思っているところが、そこを足にした途端、感覚がクルッと入れ替わって床になるだとか、そういった宇宙での感覚は覚えていて、すぐに適応できました。また、体の使い方なども覚えていて、割とすぐに適応できたと思います。人間の適応力のすごさに自分も驚いています。

今回の滞在中、様々な日本宇宙食や日本製の生活用品を試す機会があるかと思いますが、特に楽しみにしているものは何でしょうか?それから、既に試したものがあれば教えてください。

実は全て楽しみにしております。宇宙食や生活用品の中で、今回初めて打ち上げられたものに関しては、追ってご報告をさせていただく予定でおります。就寝時に着るいわゆる寝間着のようなものは今、既に就寝時に使わせていただいていて、とても温かく快適に過ごさせていただいております。大変ありがたいです。

日本は2020年代後半に日本人宇宙飛行士を月面に送ることを目指していますが、今回の滞在で前進する部分はどこで、残された課題は何でしょうか?ご自身も月面探査を目指されるのかお聞かせください。

有人宇宙探査に向けた技術開発は、1つ1つ積み重ねていくものだと思います。今回も1つ1つデータを積み重ねていくことによって、その技術をより確実なものにしていく。それが前進になると思います。具体例として、先ほど冒頭でご紹介した宇宙の火災安全性研究に関して言えば、地上の1Gと宇宙の0Gではモノの燃え方が違うので、例えば、新たなアクリル板、綿の布、難燃性の繊維など、様々な燃焼特性データを宇宙環境で取得しています。こういったことが将来的に宇宙における火災に対する安全性をより高める基礎データの蓄積になります。

これからの課題ということでは、1つめは、1つ1つはとても小さなステップかもしれませんが、その積み重ねで技術が確立していくので、これからもそのステップを積み重ねていくこと。そして2つめは、地球周辺の低軌道における民間利用の拡大に向けて民間の技術実証を行っていくこと。これらが今後の課題だと思います。

月は、もし機会があればぜひ目指してみたいですが、そうでない場合でも、月を目指す同僚、後輩を精一杯支援したいと思います。

記者会見の様子(Image by JAXA)

古川さんが宇宙に行ってから、H-IIAロケットの打ち上げが成功し、小型月着陸実証機SLIMのミッションが進んでいます。医学者かつ研究者である古川さんが今後の有人月面探査の中で、人体への影響という点で特に気になることと、宇宙医学が宇宙開発だけでなく地球の我々にどのように役立つかを教えてください。

宇宙環境が人体に及ぼす影響については、私は現状では放射線の影響が大きいと考えています。1日当たり0.5から1ミリシーベルトと、地上の自然放射線の数十倍を浴びてしまい、それが月やさらに遠くなると、もう少し多い数字になると推測されています。そのため、その量を何とか制御、コントロールすることが大切かと考えています。

2つめの質問については、狭い意味での宇宙医学は、従来は宇宙で人の健康を保つための研究でしたが、そこで得られた知見を外挿すると、地上での健康増進に役立つのではないかと考えています。研究はまだ途上で、具体的にこれが既に役立っているとは言えないのですが、バランスが悪くなった時に、それをどう回復するか、筋肉や骨が弱くなっている時に、それをどう高めていくかといった領域で、地上にも知見が活かせるのではないかと考えています。

今回はクルードラゴンへの搭乗でしたが、使い勝手あるいは運用についてのご感想を伺えますか。また、民間企業の宇宙活動の拡大状況についての期待あるいはご感想を伺えるとありがたいです。

クルードラゴンの使い勝手はとても良かったです。多分、人間工学の専門家も入って設計されたのだと思いますが、とても機能的にできており、それをしっかり仲間のクルーと運用していました。乗り心地については、クルードラゴンが打ち上がり、地面を離れたと推測される瞬間に、背中を後ろから優しく押されるような加速度を感じることができました。前回のミッション時に搭乗したソユーズ宇宙船は、最初の加速度があまりにゆっくりだったので、地面を離れた瞬間が分からず、訓練のシミュレーターの中にいるのかと勘違いするくらいで、本当に今、打ち上がったのかと疑ったぐらいでした。その点が違ったと思います。

民間企業の宇宙活動の拡大は、素晴らしいと思います。民間の企業の力によって宇宙へのアクセスが増えたり、様々な選択肢が増えたりするのはとても素晴らしいことだと思いますし、私も応援しています。

ISSに12年ぶりに滞在されて懐かしさもあると思いますが、変わったことも多々あるかと思います。ここまでの生活や作業の中で、ISSの中で変わったこと、驚いたことがあれば教えてください。

仕事環境において、実験時の通信機器などが大幅に進化して、通信速度が速くなっています。それに伴って実験機器も最新のものに入れ替えられており、様々な高度な実験が行われていると感じています。

生活の方も、日本企業の皆様のおかげで宇宙食や生活用品など、とても充実しています。宇宙での生活の質が前回の飛行時よりも高くなっており、とても快適に過ごせています。しっかり仕事をする上での生活の基盤をご支援いただき、とても感謝しています。

古川宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)

報道各社の皆様、本日はお集まりくださり、ありがとうございました。今後もクルー、そして地上のスタッフと力を合わせて、国際宇宙ステーションでしっかり着実に仕事をしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

記者会見に臨む古川宇宙飛行士(Image by JAXA)

軌道上記者会見の様子は、JAXA YouTubeチャンネルにアーカイブがありますので、見逃された方はぜひご覧ください。

JAXA古川聡宇宙飛行士の国際宇宙ステーションからの軌道上記者会見

URL:https://youtu.be/0LU5Y05I_5k

※本文中の日時は全て日本時間

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。