古川聡宇宙飛行士 国際宇宙ステーション長期滞在に係る記者会見
来月17日(木)19時56分(日本時間)に打上げが予定されているクルードラゴン宇宙船運用7号機(Crew-7)に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する古川聡宇宙飛行士が、訓練のため滞在しているヒューストンから7月26日にオンラインにて記者会見を行いました。
古川宇宙飛行士冒頭の挨拶(抜粋/要約)
皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は主に3つのことをお話しさせていただきます。1つめが現状です。2つめがミッションに向けた意気込み、3つめがCrew-7についてになります。よろしくお願いいたします。
現状について
前回、スペースX社製のクルードラゴン宇宙船運用7号機への搭乗決定をお伝えした後にも、関係する国内外の多くの皆様のご支援を受けて訓練を続けてきました。そして今回のISS長期滞在ミッションにおけるCrew-7の訓練が先週終わりました。そして、ISSの訓練は明日で終了し、その後は必要に応じてリフレッシャー訓練を行う予定です。今回、打上げの目標日程が具体的に決まったことで、いよいよ最終段階に入ってきたなと感じております。
意気込みについて
これまで積み重ねてきました訓練を活かして着実にしっかりと大仕事をしていきたいと考えております。今回のキーメッセージは「宇宙でしか見つけられない答えが、あるから」になります。ここで言う答えというのは、主に二つだと考えております。1つめが、長期安定した微小重力という地上では得られない、ISSの特殊環境を利用して、地上での我々の生活をより良くするということです。2つめは、今後の有人の月探査に向けた様々な技術実証になります。
Crew-7について
Crew-7は、4人のクルーの国籍が米国、デンマーク、日本そしてロシアと全て異なる国際クルーになります。これまでスペースシャトルのミッションのSTS-100において7人のクルーの国籍が4つだったという例がありますが、同じ国籍の人が2人おらず、全員の国籍が異なるという4人以上の宇宙船のクルーというのは初めてになります。このような異なるバックグラウンドそして経験を持つクルーが力を合わせてチームを作ることにより、そのチームはより強いチームになると考えております。
質疑応答(一部)
今回の宇宙飛行は12年ぶりと伺いました。飛行だけが宇宙飛行士の仕事ではありませんが、アサインされるまでの長い間、どのようにモチベーションを保ってきたのでしょうか。
ぜひもう一度、宇宙で仕事をしたいという気持ちを持って仕事をしてきました。 仲間の宇宙飛行士の支援など様々な仕事をしてきましたが、そういう期間も、現役宇宙飛行士として様々な技量も維持向上させながら、ぜひ、もう一度…という思いをずっと切れることなく保ち続けてきました。
先ほど意気込みで語られた、有人探査に向けた技術実証ですが、古川さんがISSに行かれて、帰還された後はどのように活かされていくのでしょうか。
私は、宇宙で様々な技術実証を行うJAXAという大きなチームの一員として、実際に宇宙での作業を担うということになりますので、その立場で申し上げます。若田飛行士の時も実施しているものを引き継ぐかたちですが、水の再生装置の技術実証に関わる予定です。これは、エアコンから出る水やクルーの尿を再利用するのですが、その際に、100パーセント回収できるわけではありません。少しずつ減っていってしまいます。それを日本の技術を活かして、より小型で省電力、かつその回収効率もより高いような、水再生装置を目指して技術実証中です。その中では、例えば水の中に泡が生じた時に、地上と違う挙動をしたら、それがそのシステムに悪影響を及ぼさないか、しっかり機能するかということを中心に実証していくわけです。そうした実証結果を積み重ねることによって、次のステップに進める、すなわち、日本の技術を生かした生命維持装置、環境維持装置に繋がっていくものと考えています。
ミッションの中に立体臓器創出技術の開発という実験があったと思いますが、医師として科学者として、この実験の意義や、これが宇宙で実験できると地上にどのように活用が期待されるのかといった点について、古川さんのご見解をお聞かせいただけますか。
詳細なところは、その研究者である谷口教授に、ぜひインタビューしていいただけたらと思いますが、私の理解でお話しさせていただきます。宇宙という特殊な環境を使うとこんなことができるのだということを示す、いわゆるチャンピオンデータを宇宙で得て、それを応用して、地上でも似たような環境を作り出して、実際に再生医療、移植医療で使えるような実用的なシステムを作り上げていくのではないかと、そこに役立つものと理解しております。
古川さんの59歳での宇宙飛行は、若田さんと並んで日本人宇宙飛行士では最高齢となると思いますが、その点で努力されていることなどがあれば教えてください。
自分としては、訓練をしっかり受けて、学んだことをメモでまとめたりしながら、確実に定着させて次の段階に進むということを意識するようにしています。最新のテクノロジーや便利な道具などを使うのは当然若い方の方が得意ですので、そういったところは躊躇せずに「これどうやって使ったらいいの」と、より若手の仲間のクルーに聞くようにしています。
研究チームのデータの書き換えなどで古川さん自身も懲戒処分を受けられたということがありました。その際、信頼回復に取り組みたい、その姿を見てほしいとのことでしたが、この点についてコメントをお願いいたします。
クルー同士、あるいは地上の仲間と力を合わせながら、しっかりダブルチェックをできる限りしながら、しっかり着実に仕事をしていきたいと考えております。
信頼回復に向けて、すでに訓練中に実施していること、心掛けていることがあれば教えてください。
今回の件は仲間のクルーにも説明済みで、着実に実施することについて、クルーの間でのダブルチェックや、お互いに遠慮なく声を上げてしっかり違う角度の視点で確認、指摘し合える体制を互いに心掛けています。かつ、地上の仲間とのあいだでは、映像を下せる状況であれば、実験の際にカメラをオンにして手元が映るような形で、作業の様子を研究者、エンジニアとして地上の管制官の皆さまに見ていただいて、確実に実施できるようにしたいと考えております。
新たな宇宙飛行士候補者の諏訪さん、米田さんがいらっしゃいますが、その方々から見た時に先輩に当たる古川さんとしては、どんな姿、どんな事を学んでもらいたいという気持ちでしょうか。
ミッションが終了して地上に帰還した後に、通常、我々はデブリーフィングということを行います。ミッションにおいて得た教訓などを関係者みんなの間で共有して、次をより良くしていくという活動なのですが、それを運用チームともやりますし、様々なチームとやっていきます。そのデブリーフィングを今の宇宙飛行士候補者の2人も含めた同僚の宇宙飛行士などとも、ぜひ行っていきたいと考えています。そこで色々な自分の感じたこと、こういう風にした方がいいよといったことを積極的にお伝えしていきたいと思います。
この宇宙滞在における古川さんらしさを出すにはどういうことをしたらいいのかというのをお答えいただけますでしょうか。
医師としての視点で、自分の体の変化、それから無重力環境に体が適応して慣れていく変化というものに今も変わらず興味がありますので、そういったことを、自分一人の主観的な、時には感想レベルのものであるかもしれませんが、こんなことが起こる、というのをお伝えできたらいいなと考えております。
古川宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)
本日はお忙しい中、ありがとうございました。積み重ねてきた訓練を活かして、しっかり誠実に宇宙ステーションおよびクルードラゴン宇宙船の中で仕事をしていきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
また、古川宇宙飛行士の記者会見後は、第70次期インクリメントマネージャである井上夏彦から、古川宇宙飛行士ISS長期滞在中の「きぼう」利用ミッションについて、公開されたミッションプレスキットを用いて、報道関係者への説明を行いました。
参加者からは多くの質問が寄せられ、古川宇宙飛行士のミッションへの期待の高まりが感じられました。
質疑応答(一部)
次世代水再生システムの実証実験ですが、実機を用いた軌道上での実験は今回が初めになるのでしょうか?将来的には、ゲートウェイに取り付けを考えているかなど、今後の見通しをお聞かせください。
この実験自体は、古川の搭乗より前から行っております。引き続き、条件を変えながら実験を行っていき、今回の古川の搭乗の時にも実証を行っていくということになっています。プレスキットP38にあるように、JAXAの方では日本の強みである環境制御・⽣命維持システム(ECLSS)を探査に活かして行きたいと考えているところです。これがそのままゲートウェイ等に搭載されるものではないと承知しており、あくまでも今回の成果を実機の設計に活用させていただくということになります。
ISS滞在中に行う科学実験が複数ありますが、今回の中でいわゆる目玉となる実験を1〜2個あげていただくとすれば、どれになるでしょうか。
我々のキーメッセージにもありますように、トピックとしては有人探査に向けた技術実証と、「きぼう」の利用の多様化というところになってくると思います。有人宇宙技術探査に向けた技術の実証では、先ほど出ました水再生のシステムやFLARE(フレア)と呼んでいる無重力空間で物の燃え方がどうなるかという実証。これらがこれからの有人探査に向けた非常に重要な技術になってくると考えています。
「きぼう」利用の多様化という意味では、Cell Gravisensingと、Space organogenesis。前者は細胞がどのように重力を感知するかというところ、後者は臓器創出技術につながる立体培養。「きぼう」の中で、定型的な利用をしやすくするような様々なプラットフォームを作っているところですが、新しい細胞培養のプラットフォーム形成に向けて、こちらの実験の成果を役立てたいと考えています。
プレスキット全文は、古川宇宙飛行士特設サイトに掲載しておりますのでぜひご覧ください。
また古川宇宙飛行士の記者会見およびISS滞在中の「きぼう」利用ミッションに係る説明会の様子は、YouTubeでライブ配信されました。見逃した方はJAXAの公式YouTubeチャンネルでアーカイブ配信されていますのでご覧ください。