Reportレポート若田宇宙飛行士の活動レポート 05

若田宇宙飛行士訓練レポート2022(第4回)

訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA

自身5度目の宇宙飛行に向けて準備を進めている若田光一宇宙飛行士。現在、国際宇宙ステーション(ISS)での滞在に向けて様々な訓練を行っていますが、一体その訓練とはどんなものなのか、若田宇宙飛行士に直接インタビュー!全4回の訓練レポートとしてお届けします。最終回は、「船外活動(EVA)訓練」についてです。

—ISSのメンテナンスやアップグレードのための作業を行う船外活動(Extravehicular Activity: EVA)。若田さんは、今回のミッションで初めての船外活動を実施する可能性がありますが、その訓練はどこでどのように行うのでしょうか?

船外活動は、ISSでは当然、無重力環境で実施するのですが、地球上でその環境を模擬できるのは限られた場所となります。NASAジョンソン宇宙センターにある無重量環境訓練施設(Neutral Buoyancy Laboratory:NBL)がその1つです。そこでは、訓練用船外宇宙服を着てプールの中に入り、中性浮力(水中で浮きも沈みもしない状態)を利用して訓練をしています。実際の宇宙での船外活動は約6時間行うため、それに合わせて約6時間に渡る潜水作業をして訓練を行います。

船外活動(EVA)訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎
JAXA/NASA/Robert Markowitz
船外活動(EVA)訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎ JAXA/NASA/Robert Markowitz
船外活動(EVA)訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/Norah Moran
船外活動(EVA)訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/Norah Moran

—水中の動きは宇宙空間での動きと似ているため、プールの中で訓練を行うのですね。

そうですね。地上での訓練は、水の中が最適な環境だと思います。ただ、水中では水の抵抗や重力と浮力が釣り合う点がありますが、宇宙空間ではありません。そのため、宇宙空間で体が回転し始めてしまうと、その回転を止めるのは水の中よりも難しくなります。

—無重量環境で船外宇宙服を着て行う作業はどのような動きが大変なのでしょうか?

ISSの無重量環境でもプールの中の無重量環境でも同様ですが、ごわごわした手袋を含めて与圧された宇宙服の中で長時間に渡って作業をするため体力を消耗します。ISS上では太陽電池パネルや熱制御用ラジエーター、通信用アンテナ、外部設置カメラ等、船外活動中に触れる事が許容されないセンシティブな機器が沢山あるので、間違ってぶつかって損傷を与えたりしないよう注意して体の動きをコントロールして作業しなければならないケースも多々あります。

—実際の船外活動と同様に6時間以上行う訓練を、ミッションに向けて何回くらい実施するのですか?

今回ISS長期滞在訓練は約1年半に渡る訓練期間がありましたが、その間10回程度ミッション固有の6時間に渡る潜水による船外活動訓練を行いました。それ以前に同様な潜水訓練は90回程度実施しており、私にとって最も楽しくやりがいのある訓練の一つです。

—NBLでのEVA訓練では、今回星出さんと一緒に潜る機会がありましたよね。日本2人が潜るのは珍しいと伺いました。

これまで、古川さんや星出さん、金井さんらとも一緒に船外活動のための潜水訓練をする機会に恵まれました。8月の星出さんとの潜水訓練では、実際に星出さん達のクルーがISSで実施した船外活動と同様な作業の訓練だった事もあり、星出さんの豊富な船外活動の実体験に基づく貴重なアドバイスを沢山戴き、大変有意義な訓練でした。

—こうした地上での訓練をいかして、実際に船外活動を実施したいという思いはありますか?

私はこれまでにISSでの長期滞在を2回経験していますが、過去の滞在のときも訓練を積み重ね、いつでも船外活動ができる万全の状態にしていました。自分用の手袋など、船外活動をするために必要な用品も宇宙に届けられていたのですが、計画された船外活動がなく、その機会はありませんでした。

今回も船外活動が実施されるかどうかは確定していませんが、訓練では、新しい太陽電池パネルやその基部の取り付け作業も徹底して行ってきました。設置する場所は異なるものの、野口聡一宇宙飛行士や星出彰彦宇宙飛行士が行った船外活動と同様な作業で、もしタイミングが合えば、私も実際に船外活動を行う可能性はあります。訓練はすべて行っていますので、準備は万端です。今回のミッションでは是非船外活動を実現したいですね。

船外活動(EVA)船外機器の取扱いに関する訓練を行うマン、若田両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos
船外活動(EVA)船外機器の取扱いに関する訓練を行うマン、若田両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos
SSATAチャンバにて船外活動(EVA)に関する訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/James Blair
SSATAチャンバにて船外活動(EVA)に関する訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/James Blair

—ここまで、若田さんが行った様々な訓練についてお話を伺いました。体力的にも精神的にも大変な訓練を経て臨む、ISSでの様々なミッション。地上から見守りながら、応援したいと思います。それでは最後に、この訓練レポートを読んでくださった皆様へ、若田さんからのメッセージをお願いいたします。

 「思いやる。チームは強くなる。」をモットーに、約半年間に渡るISSでのミッションに臨みます。「きぼう」日本実験棟をはじめとするISSでの利用成果を出し、私の次にISS長期滞在が予定されている古川聡宇宙飛行士にその成果を繋いでいけるように頑張りたいと思います。そして、ISSや「きぼう」日本実験棟の素晴らしさを、宇宙から様々な形で発信していきますので、応援どうぞよろしくお願いいたします。

プラークハンギングセレモニーにて記念撮影を行うSpaceX Crew-5クルーのマン、カサダ、若田、キキナ宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/James Blair
プラークハンギングセレモニーにて記念撮影を行うSpaceX Crew-5クルーのマン、カサダ、若田、キキナ宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/James Blair

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宇宙飛行士の仕事の中でも花形と言われる船外活動は、ISSのメンテナンスやアップグレードに欠かせない作業です。こうした作業を宇宙空間で長時間行うため、地上でも過酷な訓練を重ねているのですね。今回のISS長期滞在では、若田宇宙飛行士が船外活動を行い、訓練の成果を発揮することができるよう願っています。
若田宇宙飛行士が搭乗するクルードラゴン宇宙船5号機(Crew-5)は、10月5日(水)01時23分(日本時間)に打上げ予定です。JAXAでは打上げの模様を生中継で配信いたします。是非ご覧ください。
全4回にわたりお届けした、若田宇宙飛行士訓練レポート2022。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

<企画・インタビュー 柳田さやか>

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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