Reportレポート若田宇宙飛行士の活動レポート 03

若田宇宙飛行士訓練レポート2022(第3回)

訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA

自身5度目の宇宙飛行に向けた準備を進めている若田光一宇宙飛行士。宇宙飛行士は宇宙船の搭乗や国際宇宙ステーション(ISS)での滞在に向けて様々な訓練を行います。一体どんな訓練を行っているのか、若田宇宙飛行士にインタビューしました!訓練レポートとして4回シリーズでお届けします。第3回は、「水上サバイバル訓練」についてです。

—今回はクルードラゴン宇宙船に関する訓練について伺います。まず、水上サバイバル訓練はどんな訓練なのか教えてください。

水上サバイバル訓練は、宇宙往還機が海上等に緊急帰還した際の対応のための重要な訓練です。クルードラゴン宇宙船は、通常でも帰還時は海上に着水しますが、ソユーズ宇宙船は通常帰還時は陸上に着陸します。ただし、打上げ上昇時にロケットに何らかの異常が発生すると、ロケットから宇宙船だけが切り離され、緊急帰還する場合もあります。そのような場合には、どの宇宙船でも海上に緊急着水する可能性があります。

緊急着水の場合、着水する場所によっては、救助隊が到着するまでに数時間、あるいは24時間もかかることがあります。そのようなときに、海上の宇宙船内に留まったり、あるいは宇宙船から脱出し、緊急無線機を使ってどのように救助隊と交信を行うのか、そして食料や発煙筒など宇宙船内にある緊急事態用装備をどう使うのか、といったサバイバルのための訓練を行っています。

緊急時は、宇宙船そのものが危険な状態になっている可能性もあります。例えば、宇宙船の中で火災が発生しているときには、海が荒れて波が高くても、着水後宇宙船の外に短時間で脱出しなければなりません。その訓練は、まずヒューストンのジョンソン宇宙センターにある巨大なプールの中で行い、最終的にはフロリダ州ケープカナベラルの港湾内でクルードラゴンの訓練モックアップを実際に海上に浮かべて、そこから安全に避難できるよう訓練します。救命ボートも実際にクルードラゴンで使用されるものを使います。

水上サバイバル訓練を行う若田宇宙飛行士ら ©︎JAXA/NASA/Josh Valcarcel
水上サバイバル訓練を行う若田宇宙飛行士ら ©︎JAXA/NASA/Josh Valcarcel
水上サバイバル訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/Josh Valcarcel
水上サバイバル訓練を行う若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/Josh Valcarcel

—とても本格的な訓練ですね。緊急時は宇宙服(船内与圧服)から他の服に着替えることもあるのでしょうか?

例えばソユーズの場合は、宇宙船から外に出る前にソコル宇宙服から防水・防寒服に着替えたうえで外に避難する手順があります。でもクルードラゴンの場合は防寒服の装備はなく、短時間で船外に脱出する訓練が中心で、宇宙船のハッチを開け、緊急事態用装備の入ったバッグと救命ボートを海上に放出し、宇宙服を着たまま速やかに宇宙船外に避難します。

—宇宙船によって訓練の内容も違ってくるのですね。

そうですね、かなり違うと思います。それぞれの宇宙船で、たくさんの技術者の方々が、想定しうる緊急事態を考えたうえで、必要な緊急時の運用を定めています。訓練はそれらの運用方針に基づいて準備されています。宇宙機のシステムやそれを運用する環境はそれぞれ少しずつ違うため、そのために必要な訓練も変わってきます。

—若田さんは今回、クルードラゴンに初めて搭乗されますが、スペースX社ではどのような訓練を行ったのですか?

日本人宇宙飛行士としてクルードラゴンに搭乗したのは、野口宇宙飛行士、星出宇宙飛行士に続き、私が3人目ですが、3人とも「ミッションスペシャリスト」という役割です。クルードラゴンは非常に自動化が進んだ宇宙船で、打上げから帰還までクルードラゴンのシステムの操作をするのは、コマンダー(船長)とパイロットの役割です。ミッションスペシャリストは、通常運用時は、軌道上でコマンダーとパイロットの補佐のための若干の機器操作等が任務の中心ですが、火災や急減圧等のなどの緊急事態が発生したときは、クルー全員の宇宙服の装着の準備、空調バルブや消火器の操作等の任務も担当するため、緊急事態の訓練はかなり徹底的に行いました。

宇宙船のシステム自体が、クルードラゴンはスペースシャトルやソユーズと比べるとスイッチの数が圧倒的に少なく、タブレット端末で操縦しているような形です。操縦桿もありません。かなり自動化されたシステムなので、スペースシャトルやソユーズと比べて、とても短い時間で訓練ができます。これまでの宇宙船とまったく違う印象ですね。

クルードラゴン宇宙船に関する訓練を行うSpaceX Crew-5クルーの若田宇宙飛行士 ©︎SpaceX/NASA
クルードラゴン宇宙船に関する訓練を行うSpaceX Crew-5クルーの若田宇宙飛行士 ©︎SpaceX/NASA

—クルードラゴンはよく、「スマホのような宇宙船」と表現されますよね。

これまで人間が手動で行っていた操作がかなり自動化されているので、操縦者の観点ではスペースシャトルの方がおもしろかったと思います。(笑)今回一緒に搭乗するコマンダーのニコール・マン宇宙飛行士や、パイロットのジョシュ・カサダ宇宙飛行士は、テストパイロット出身なので、様々な最先端の航空機のテスト飛行を行ってきたクルーから見ると、タブレット端末で操作するのは少し物足りないかもしれませんね。でも、それは裏を返せば、宇宙飛行がそれだけ完成された、ルーティンで行えるシステムになってきていることを意味しています。これはとても重要なところで、システムが進化することで、より宇宙が近く、より訓練が少なく、多くの人たちがそれほど時間を掛けず宇宙に行き、安全に帰ってこられるようになります。クルードラゴンは、そういう時代になっていることを実感させる宇宙機だと思います。

SpaceX Crew-5クルーの若田宇宙飛行士ら ©︎SpaceX/NASA
ケーキカットセレモニーに参加するSpaceX Crew-5クルーのマン、カサダ、若田、キキナ宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/Robert Markowitz

—宇宙船などの進化で、宇宙がより身近になり、多くの人が宇宙飛行を楽しめる時代になってきたのですね。

そうですね。実際に昨年、職業宇宙飛行士ではない4人が、クルードラゴンに搭乗して宇宙飛行を成功させています。来年もクルードラゴンによる民間人のみの宇宙飛行が計画されていて、今回はクルードラゴン宇宙船による民間初の船外活動も予定されています。民間の宇宙旅行が着々と進んでいることを感じます。

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宇宙船の不具合発生時など、何らかの緊急事態で水上に不時着した場合を想定した「水上サバイバル訓練」は、搭乗する宇宙船によってその内容が異なるものの、安全に避難するための術を身に着ける大事な訓練なのですね。今回クルードラゴンに初めて搭乗する若田宇宙飛行士は、「ミッションスペシャリスト」として宇宙船の飛行状況の監視や緊急事態対応などの役割を担っています。10月3日以降の打上げが予定されているCrew-5の安全な飛行を願って、応援よろしくお願いいたします。
次回は、「船外活動(EVA)」に関するレポートをお届けします。お楽しみに!

<企画・インタビュー 柳田さやか>

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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