Reportレポート若田宇宙飛行士の活動レポート 02

若田宇宙飛行士訓練レポート2022(第2回)

訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA

自身5度目の宇宙飛行に向けて準備を進めている若田光一宇宙飛行士。現在、国際宇宙ステーション(ISS)での滞在に向けて様々な訓練を行っていますが、一体その訓練とはどんなものなのか、若田宇宙飛行士に直接インタビュー!全4回の訓練レポートとしてお届けします。第2回は、「ISS緊急事態対応訓練」についてです。

訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA
訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA

—ISS滞在中に緊急事態が発生する場合に備えて、不測の事態を想定した様々な訓練が行われていますね。

ISSでの緊急事態には、火災、急減圧、アンモニア漏れ、有毒物質の漏洩と飛散、宇宙飛行士の医学的な緊急事態などが挙げられます。ISSに宇宙ゴミが衝突して与圧構造体に穴が開いてしまうと、ISS船内では急減圧が起こります。また、ISSには様々な機器がありますが、そこから火災が発生したり、米国の熱制御システムの冷媒として使われている有毒なアンモニアが船内に漏れたりする状況は、クルーの命に関わる重大な事態です。そのため、こうした緊急事態が実際に起こった場合、どのように対処して安全を確保するのかという訓練を、徹底的に行っています。この訓練をクルー全体で行うのはもちろんですが、緊急事態の対応において適切なリーダーシップを行使できる事は、クルーの安全確保のために非常に重要です。緊急事態への対応訓練は、特に、ヒューストンのジョンソン宇宙センター、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センターで重点的に行います。

新型コロナウイルス感染予防をしながらISSの緊急事態対処訓練を行う若田・エプス両宇宙飛行士
新型コロナウイルス感染予防をしながらISSの緊急事態対処訓練を行う若田・エプス両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/Norah Moran

—火災や有毒物質の飛散など、想像しただけでも恐ろしい状況ですが、そうした緊急事態に対応するための訓練とは、具体的にどのような内容なのでしょうか?

一言で緊急事態対応訓練といっても、アメリカとロシアでは宇宙機の設計思想の違いから、例えば火災発生時の対応方針も若干異なります。ロシアの区画では火災が発生したら、安全を確保しつつ、まず消火する事から始めますが、アメリカの区画(日本やヨーロッパの区画も同様)では火災検知後、まずは安全な場所まで避難します。そのうえで、火災の発生源の装置を電力システムのテレメトリ等から推定し、必要に応じてガスマスクを着用して火災の発生源付近の一酸化炭素等の濃度を測定し、火災発生源が特定されたら、その装置への電力供給を停止します。

これは軌道上のコンピュータからか、或いは地上管制局からスイッチオフのコマンドを送る事で行います。それで火災が収まればいいのですが、それでも火災が継続する場合には、ガスマスクを外して酸素マスクを装着し、有毒ガスを吸いこまないようにした上で、火災発生源の区画に消火器から二酸化炭素を注入し消火作業をします。ここまでの手順を進めても火災が治まらなければ、火災が発生している実験棟等のモジュールそのものの電源を切ります。こうした一連の緊急事態対応について、ISSの与圧部分の実寸大のモックアップを使用して訓練を行います。

—今回はコロナ禍での訓練でしたが、これまでと比べて大変なことはありましたか?

宇宙飛行士の訓練は筑波やヒューストン、ケルン、モスクワ等、ISS参加各国の宇宙センターで行われます。筑波では日本実験棟「きぼう」の訓練を行いますが、この2年近くは新型コロナ感染対策のため、海外の宇宙飛行士はリモートでしか訓練できない状況でした。それが、つい最近、対面での訓練が実施できるようになり、海外の宇宙飛行士も筑波に来て訓練を行っています。理論的なものや座学でできるものはリモートでも訓練できますが、機器の操作や複数の宇宙飛行士が共同作業するものは訓練モックアップなどを使って実際に作業をしてみないと訓練しにくいですね。リモート訓練は効率的な一面がありますが、リモートだけでは完結できない部分があるので、そういうところを見極めながら、感染防止対策を徹底して訓練を進めました。

筑波だけでなく、ヒューストン、モスクワ、ケルン、それからカリフォルニア州にあるスペースX社での訓練でも同様です。コロナ禍の中で、感染対策をきちんとしながら必要な訓練をしてきました。こうしたリモート訓練と実地訓練の見極めは、宇宙飛行士以上に、訓練計画を立てる方、訓練教官チームの皆さんが苦労されたところではないかなと思っています。そういった方々がクルーの安全を確保できるように配慮してくださったおかげで、私たちは安全に訓練することができました。振り返ってみると、リモート訓練も含めて、とても効率的に訓練することができたと思います。

新型コロナウイルス感染予防をしながらISSの緊急事態対処訓練を行う若田宇宙飛行士ら ©︎JAXA/NASA
新型コロナウイルス感染予防をしながらISSの緊急事態対処訓練を行う若田宇宙飛行士ら ©︎JAXA/NASA/Bill Stafford

—今お話しされた筑波での訓練では、「きぼう」のフライトディレクタと打ち合わせをする場がありましたが、打ち上げ前に対面でコミュニケーションを取ることで、軌道上での活動におけるコミュニケーションも変わってきますか?

5月末から6月初めの筑波での訓練の際に、NASAの宇宙飛行士たちと共にJAXAの森研人フライトディレクタをはじめ、運用管制チームや実験担当の皆さんと直接対面で打ち合わせができたことは本当に幸いでした。リモートでお話をする機会はありますが、ISS滞在中に「きぼう」運用管制チームの皆さんとしっかり連携しながら仕事をするためには、宇宙へ行く前に対面で話すことができた事は貴重な機会だったと思います。

「きぼう」運用管制チーム(JFCT)ミーティングに参加する若田宇宙飛行士 ©︎JAXA
「きぼう」運用管制チーム(JFCT)ミーティングに参加する若田宇宙飛行士ら©︎JAXA
若田宇宙飛行士らとミーティングを行う「きぼう」運用管制チーム(JFCT) ©︎JAXA
若田宇宙飛行士らとミーティングを行う「きぼう」運用管制チーム(JFCT) ©︎JAXA

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第2回の訓練レポートは、「ISS緊急事態対応訓練」についてご紹介しました。

宇宙飛行士の命に関わることもある、ISSでの不測の事態。どのような状況でも冷静に対処するため、徹底した訓練で備えていることがよくわかりました。いざという時は、クルー全体で力を合わせるのはもちろんのこと、地上から宇宙飛行士の命を守る運用管制官と連携することも重要です。筑波で行われた訓練の際には、真剣な眼差しで「きぼう」運用管制チームとの打合せに臨み、参加している他のクルーを気遣いながら話し合いを進める若田宇宙飛行士の姿が印象的でした。

次回は、「水上サバイバル訓練」に関するレポートをお届けします。お楽しみに!

<企画・インタビュー 柳田さやか>

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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