Reportレポート若田宇宙飛行士の活動レポート 01

若田宇宙飛行士訓練レポート2022(第1回)


訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA

自身5度目の宇宙飛行に向けて着々と準備を進めている若田光一宇宙飛行士。現在、国際宇宙ステーション(ISS)での滞在に向けて様々な訓練を行っていますが、一体その訓練とはどんなものなのか、若田宇宙飛行士に直接インタビュー!全4回の訓練レポートとしてお届けします。第1回は、「T-38ジェット練習機飛行訓練」についてのお話です。

訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA
訓練について語る若田宇宙飛行士 ©︎JAXA

宇宙飛行士の基礎的な能力や資質を身につけるT-38ジェット練習機飛行訓練

T-38ジェット練習機とは、米空軍の戦闘機パイロット養成をはじめ、NASA宇宙飛行士訓練のために古くから使われている2人乗りのジェット機です。NASAにおけるT-38ジェット練習機による飛行訓練は、宇宙飛行士候補者としての訓練課程から開始され、最初の2年は後部座席での操縦資格を取得・維持するために、年間で100時間の飛行が義務づけられており、通算で200時間飛行した後は、年間48時間の飛行を継続して、能力や技術の維持・向上が求められます。

T-38ジェット機飛行訓練を行うカサダ、若田両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos
T-38ジェット機飛行訓練を行う、若田・カサダ両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos

なぜ宇宙飛行士がジェット機の飛行訓練を行うのでしょうか?また、T-38ジェット練習機飛行訓練の目的について教えてください。

T-38ジェット練習機の訓練は、宇宙飛行準備訓練(Spaceflight Readiness Trainingと呼ばれています。航空機の計器を使った操縦訓練で、宇宙機を操作するための必要な技能を身に着けられるんです。また同乗する2名のパイロットが共同作業を通じてチームワークを高めたり、悪天候など想定外の事が起きても冷静に状況を判断して、安全・確実にミッションを遂行したりするなど、この訓練には宇宙飛行士としての能力や資質を磨くために必要な要素が詰まっています。

新型コロナウイルス感染予防をしながらT-38ジェット機飛行訓練を行う、若田・カサダ両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos
新型コロナウイルス感染予防をしながらT-38ジェット機飛行訓練を行う、若田・カサダ両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos

操縦の技能を身に着けるだけでなく、ハプニング発生時における冷静な判断能力など、様々なスキルが試される訓練なのですね。

航空機の操縦においては、悪天候やエンジン停止・装置の故障など、様々なトラブルが発生する可能性があります。そのような状態になったことが私も実際にありましたが、仲間のクルーや地上の管制官と協力しながら必要な措置をとることは、宇宙船やISSでの安全・確実なミッション遂行に繋がる、とても大事な訓練だと思います。

過去の訓練では実際にトラブルが発生したことがあったというお話でしたが、どのようなことが起こったのでしょうか?

ジェット機の飛行訓練中、2つあるエンジンのうち1つが高度約41000フィート飛行中に停止したのですが、その際は正常に作動しているもう1つのエンジンで近くの空港に緊急着陸しました。手順を確認しながら同僚のパイロットと一緒に11つ正確に作業を行い、安全に着陸しました。その他にも軽微なトラブルは何度もありましたが、宇宙飛行に直結する重要なシステム運用の資質を磨くことができる、貴重な訓練機会だと思います。

T-38ジェット機飛行訓練を行うカサダ、若田両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos
T-38ジェット機飛行訓練を行う、若田・カサダ両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos

この訓練は2人のクルーが同乗して行うため、信頼関係も培われますね。

そうですね。前後2つの席に座り、直接声は聞こえないためマイクを通して話すのですが、航空機を安全に操縦するための緊密な連携のみながらず、宇宙飛行に関する話題等、普段なかなか出来ないような情報や意見の交換もでき、お互いの信頼関係を高める上での非常に良い機会になっています。

訓練において特に大変だったのはどんなことでしょうか?

操縦訓練だけではありませんが、一番苦労したのは英語でした。最初はパイロットや地上の管制官が言っていることがまったく理解できず、これではクルーとして戦力外だなと感じました。
そこで整備士に頼んで通信を録音するケーブルを作ってもらい、飛行中にパイロットや地上管制官との会話を録音しました。家や通勤中の車の中でそれを聞きながら飛行訓練の復習をして、次の操縦訓練に備えるということを繰り返すうちに、次にどのような会話が行われるのか予測できるようになり、航空機の操縦の中でもコミュニケーションがスムーズにできるようになりました。

若田宇宙飛行士が英語で苦労したというのは、少し意外な印象を受けました。

センスは無いので気合だけでやっています(笑)。私にとって「語学」は航空機の操縦に限らずNASAの色々な訓練で苦労しましたが、苦境に陥った時はどうすれば克服できるのか真剣に考えるため、必要なことが何かを見極めて11つ焦らず前に進めていくと、気がついたときには英語でもロシア語でも理解して話せるようになっていたので、苦労している時が1番前進しているのではないかと感じます。

T-38ジェット機飛行訓練を行うカサダ、若田両宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos
T-38ジェット機飛行訓練を行う、若田宇宙飛行士 ©︎JAXA/NASA/David DeHoyos

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1回の訓練レポートは、「T-38ジェット練習機飛行操縦訓練」についてご紹介しました。

宇宙機操縦に向けた技術を向上させるだけでなく、チームワークを高め、さらにトラブル発生時の冷静な判断能力を身につけるなど、宇宙飛行士に必要な能力や資質を磨くための大事な訓練なのですね。苦労や困難を乗り越えるための取り組みも、努力を惜しまない若田さんならではの気合を感じるエピソードでした。

次回は、「ISS緊急事態対処訓練」に関するレポートをお届けします。お楽しみに!

<企画・インタビュー 柳田さやか>

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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