Report & News大西宇宙飛行士の活動レポート&ニュース

JAXA筑波宇宙センター「特別公開 2025」で、大西卓哉宇宙飛行士のミッション報告会が開催されました。

イベント会場の様子(Image by JAXA)

JAXA筑波宇宙センターで、年に一度開催される「特別公開」が11月8日(土)に開催されました。この日は、JAXAの各部門が趣向を凝らし、来場者の皆さまに日頃の研究や活動を楽しく伝えるイベントを行います。有人宇宙技術部門では、有人宇宙技術の魅力を感じ取っていただくイベントを各種用意しました。中でも、いちばんの目玉企画は、大西卓哉宇宙飛行士による特別講演。国際宇宙ステーション(ISS)で行ったミッションや宇宙での生活について、大西宇宙飛行士から直接話を聞くだけでなく、参加者から大西宇宙飛行士に質問ができる場を設けました。

イベントは、①10:30~11:15、②11:45~12:30、③13:15~14:00の3回が開催され、会場となった宇宙実験棟(W-3)はどの回も満席。大人から子供まで、宇宙に関心を寄せる方たちで大盛況となりました。

オープニング

本イベントの司会は、新人宇宙飛行士VTuber月女神(アルテミス)イチさん。会場の前方に掲げられたディスプレイ越しに挨拶を行った後、本日の主役である大西宇宙飛行士が入場。会場に大きな拍手が響きました。月女神イチさんは、大西宇宙飛行が今年二度目の宇宙滞在を経験し、日本人で3人目のISS船長を務めたこと、約5か月間の宇宙滞在ミッションを終えて地球に帰還したことを紹介。そしてこのイベントでは、そんな大西宇宙飛行士から宇宙での経験を語ってもらい、最後には来場者から大西宇宙飛行士への質問タイムも設けられていることが伝えられました。

大西宇宙飛行士によるミッションの紹介

大西宇宙飛行士は会場の皆さんに改めて自己紹介を行い、「今日のこのイベントをとても楽しみにしていました」と挨拶。約5か月にわたるミッションをまとめた映像とともに、自身が行った宇宙実験や、宇宙での生活を紹介しました。

最初に紹介されたのは、9年ぶりとなった宇宙飛行について。搭乗したスペースX社のクルードラゴン宇宙船は、予想よりも滑らかな乗り心地で、打上げから約25時間後にISSに到着したと説明しました。またISSは、前回ミッションの2016年と比べると、実験装置やケーブル配線が増えた印象を受けたと語りました。

ISSで行った実験については、細胞が重力を感知するメカニズムを探る実験、無重力状態で物がどう燃えるのかを調べる実験、船内を自立飛行しながら写真や映像の撮影を行うInt-Ball2というロボットの動作検証などを紹介。中でも燃焼実験は、将来、月や火星ミッションに向かう宇宙船をより安全に開発するのに役立つと説明しました。

その他、宇宙飛行士がISSの船外へ出て作業を行う船外活動についても言及。船外に出る前に6時間もの準備作業があることや、自身は船内で活動前後のサポート役を担当したことを説明し、船外活動は危険を伴う作業であること、クルーが一丸となって取り組む作業であることを強調しました。また、民間企業アクシオム社のミッションについても触れ、ISSの退役が予定されている2030年以降、このような民間ミッションが一般的になっていくだろうと語りました。

ISSでのミッションや生活について話す大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

ISSでの宇宙飛行士の日常の紹介

ミッションの内容だけでなく、宇宙での日常生活についても詳しく語った大西宇宙飛行士。微小重力環境での洗顔や歯磨きなど、宇宙ならではの方法について語りました。特に水の扱いについては、重力がないため水が物にまとわりつくこと、水が貴重なため歯磨き後の水も飲み込む必要があること、排泄した尿から水をリサイクルして利用していることなどを解説しました。また食事については、全体のうちの15%程度は宇宙日本食を持っていけることや、名古屋コーチンの味噌煮や鰻など多様なメニューがあることを紹介。微小重力環境では食べ物がふわふわ浮くので、皿を使わずパックから直接食べることを説明しました。

さらに、骨や筋肉の衰えを防ぐためには、毎日2時間の運動が必要なことを語り、運動嫌いの自分は「仕事」だと思ってやっていたと本音もポロリ。そして、運動で汗をかいた後のシャンプーや体の洗い方も、地上と違って水道やシャワーがないため、少量の水を使って洗い、表面の水分を拭き取って終わりだと説明しました。

また、余暇の時間では、窓から景色を眺めたり、インターネットを使ってSNSで情報発信したりしていたことも紹介。その中のひとつ、「宇宙でやってみた」シリーズの動画撮影では縄跳びや平泳ぎを試みたことが語られ、その映像が前方のスクリーンに映し出されると、微小重力ならではの不思議でユーモラスな様子に会場からは笑い声が聞かれました。

そして最後に、同じく日本人宇宙飛行士の油井さんとISSで1週間一緒に過ごし、仕事の引き継ぎをしたこと、地球に帰還する際、宇宙船が大気圏に突入すると1000度以上の高温になり外観が焦げること、帰還後は、地球の重力に再び慣れることが難しく、バランスの取り方を忘れているため歩行が不安定になることなども紹介しました。

大西宇宙飛行士への質問タイム

ここからは、いよいよお待ちかねの質問タイム。月女神イチさんが「現役宇宙飛行士に質問できるチャンスはなかなかないですよ!皆さん、いろいろ聞いてみてください!」と促すと、会場では続々と手があがりました。大西宇宙飛行士は、都度、質問者の席まで行き、時には真剣に、時にはユーモアを交えて、質問の一つひとつに丁寧に回答しました。

参加者からの質問に答える大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

ー宇宙で起こった想定外のことは何ですか。

ISSにある3つのトイレが全て同時に壊れたことです。その時がいちばん焦りました。クルーにもすごく緊張感が走りました。なんとか2時間ほどで1つを直し、使えるようになりましたが、その時はみんな必死でした。

ーISSからスペースデブリ(宇宙ゴミ)はよく見えますか。

もし見えたら危ないです。ISSは秒速8kmという猛スピードで移動しており、宇宙ゴミも同様かそれ以上に速いため、見えたら終わりかもしれません。スペースデブリの位置は地上からレーダーで監視しており、ISSにぶつかりそうになった場合は、事前に高度を変えて避けています。なので、見えるほど近づくことはありません。

ー月面でキノコを栽培することはできますか。

面白い質問ですね。可能だけれど、大変だろうと思います。月面の土は栄養がほとんどなく、水も不足しているため、人間が栄養と水を準備する必要があります。ただし、そういった月面での食料の自給自足は非常に重要な課題です。ISSでは過去に、レタスやトマトの栽培実験が行われたことがあります。

ー宇宙船はどんな金属で作られていますか。

私もよく分かっていません(笑)宇宙船の飛ばし方は習いましたが、作り方はあまり知りません。ですが、聞いて驚いたのは、宇宙船は非常に薄い金属の殻でできているということです。何十cmもの分厚い壁に守られている訳ではないそうですよ。

客席に降りて質問を聞く大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

ーISSの壁を船内から押すと、作用反作用の法則でISSは加速するのではないですか。

なるほど、難しい質問ですね。作用反作用の法則は必ず働きますが、ISS全体の重さに対して人間の体は無視できるほど軽いものです。そのため、力いっぱい押してもISSの加速度はほとんど無視できるレベルです。宇宙船のエンジンなどを使って進めないとISSの速さは変わりません。

ーISSの船長就任時に渡される「鍵」は、何の鍵なのですか。

あれは何でもない鍵です。ただのシンボルで、何かを開けたりする訳ではありません。船長の証として代々受け継いていくだけです。私は受け取った後、自分の個室のバッグに約3か月しまったままにしていました(笑)。

ー宇宙飛行士の試験で一番大変だった試験は何ですか。

一番大変だったのは、10人で1週間、一般の家ほどの場所で生活する試験です。この試験では、行動や話していることが全てカメラやマイクで監視されていました。見られていると思うと、無意識に良い人に見せようと振る舞ってしまうもので。それを1週間続けると疲れてしまいました。

ー宇宙飛行士の最終選抜に残った他の候補者と比べて、ご自身が選ばれた決め手は何だと思いますか。

あくまで私の推測ですが、前職のパイロット経験によるプレッシャーに対する慣れが大きかったのではないかと思います。緊張する場面でも普段の実力を80%程度出せる人が宇宙飛行士に向いていると私は思っていて、その点でパイロットの経験は有利に働いたと思います。

ー私は今、中学1年生です。もし20年後に私が宇宙飛行士になれたとしたら、後輩には何をしてほしいですか。

20年後はISSが既になく、月などの地球低軌道よりも遠い場所での活動が進んでいるでしょう。また地球低軌道は、民間企業による新しい宇宙ステーションでの研究が中心になっているでしょう。ただ、どんな活動であっても多くの国で協力することは変わらないので、今から英語を一生懸命勉強してほしいです。20年後、私が現役でいるかは分からないですが、一緒に働けるよう私も頑張ります。

大西宇宙飛行士から会場の皆さんへの挨拶

大西宇宙飛行士との和気あいあいとした交流の時間があっと言う間に過ぎ、講演もついにエンディング。大西宇宙飛行士は、来場者の皆さんに感謝の言葉を述べ、宇宙飛行士一人ひとり、積み重ねた経験も、感じることも異なるので、ぜひ他の宇宙飛行士の講演会にも足を運んでみてくださいと勧めました。また自分自身は、今後は月への挑戦を目指していること、皆さんの応援が力になることを伝えました。そして最後に、筑波宇宙センターの特別公開を楽しんでほしいというメッセージで講演を締めくくりました。

手を振って会場を後にする大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

※本文中の日時は全て日本時間

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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