Report & News大西宇宙飛行士の活動レポート&ニュース

大西卓哉宇宙飛行士が軌道上から石破茂内閣総理大臣をはじめとする関係者と交信を行いました。

首相公邸特設スタジオの様子(Image by JAXA)

6月30日、大西卓哉宇宙飛行士が滞在中の国際宇宙ステーション(ISS)と首相公邸特設スタジオをつなぐISS交信が行われました。特設スタジオからは、石破茂 内閣総理大臣、あべ俊子 文部科学大臣、城内実 内閣府特命担当大臣(宇宙政策)、そして燃焼実験(FLARE)の研究代表者である北海道大学の藤田修教授および大学院生3名が参加。石破総理大臣他、ご参加者の皆様からは、ISSコマンダー(船長)という任務を担いながら、ISSでのさまざまなミッションに取り組んでいる大西宇宙飛行士へ、ねぎらいの言葉と質問が寄せられました。

まず初めに、石破総理大臣より大西宇宙飛行士へ次のようなメッセージが送られました。

「大西さん初めまして。内閣総理大臣石破茂です。3月からの宇宙での長期滞在、大変お疲れ様です。お元気な姿を今拝見してとても嬉しく思います。現在国際宇宙ステーション全体を指揮するISSの船長を務められていると伺いました。各国が共同運営するISSで、大西宇宙飛行士が重責を担っておられることに心より敬意を表します。ISSおよび「きぼう」日本実験棟での成果を最大化するとともに、その知見を継承・発展させていくことが重要であると考えております。日本政府としても米国を含む関係各国と連携し、将来の民間運営の宇宙ステーションや月を目指すアルテミス計画へと繋げていくため、引き続き宇宙開発を強力に推進してまいります。本日は日本の皆さんに宇宙でのお話を届けていただけますと幸いです」

石破総理大臣のメッセージを受け、大西宇宙飛行士は次のようにコメントしました。

「石破総理どうもありがとうございます。日頃から日本の有人宇宙活動そして宇宙体制の取り組みを力強く推進してくださり、本当に感謝いたします。私自身も今回の長期滞在においてはISSの船長という大役を全うし、次の世代へしっかりとバトンを引き継ぐことをいうことを意識し、 有人宇宙活動の現場で引き続き頑張っていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします」

続いて質疑応答が行われました。一部をご紹介します。

石破総理大臣・質疑応答(抜粋/要約)

—ISS船長は様々な国の宇宙飛行士が一同に会する環境の中でリーダーシップを発揮していく立場にありますが、特別な環境の中で成果を上げるためにどのようなことを重視して活動しておられるでしょうか?

「ISS船長という大役を担うに当たっては、しっかりと皆の意見を聞くように心がけています。その上で自分が最終的な判断を下した際には、判断に至った背景を皆にきちんと説明するようにしています。国際的なチームで円滑に仕事を進めていくためには、コミュニケーションをしっかりと取り、じっくりと信頼関係を築いていくことが最も確実な方法だと感じています。一緒に長期滞在しているクルーとは、地上での長く厳しい訓練とISSでの日常を通じて築かれた強い信頼関係があるため、たとえ意見の相違があっても、対話で解決できるチームになっていると考えています。」

—政府としては2030年まで引き続きISS計画を進めていくところですが、今後の地球低軌道活動や国際宇宙探査を見据えて、「きぼう」日本実験棟でどのような活動が必要だとお考えでしょうか?

「これから先、「きぼう」日本実験棟を含めたISSを将来の宇宙探査や宇宙開発を念頭に置いて様々な実験や実証の場として活用していくことが重要だと考えています。その上では2つの大きな観点があると思っています。1つめは国際宇宙探査に向けた、新たな技術の実証の場としての活用です。アルテミス計画に向けては、日本は「きぼう」での運用を通して、補給物資の輸送技術や生命維持・環境制御技術、月面での有人探査に向けた有人ローバー開発などに役立つ技術を「きぼう」の中でテストしていくことが重要だと思います。2つめは、民間企業が地球低軌道でビジネスを展開していくための事業実証の場としての活用です。今現在、この地球低軌道で日本が自由に利用できるのは「きぼう」だけであり、今はこの機会を活用し、将来ISSが退役した後も、日本の産学官が自在に活動できる場を確保していくことが非常に重要だと考えています。それに向けて、JAXAでも今の段階から、民間企業が様々なビジネスの事業を実証できる機会が得られるように取り組んでいきたいと考えています」

大西宇宙飛行士に質問する石破総理大臣(Image by JAXA)

あべ文部科学大臣・質疑応答(抜粋/要約)

—国際宇宙ステーションの活動お疲れ様でございます。また昨年12月以来、久しぶりに元気な大西さんの姿を見てほっといたしました。わが国はアジアで唯一のISS参加国として、国内外の青少年に対する宇宙教育活動に力を入れているところですが、宇宙を志す若者へのメッセージをぜひお願いいたします。

「「きぼう」日本実験棟において、JAXAは様々な教育プログラムを行っていますが、そういったプログラムを通して若い世代の方々の、科学技術に対する関心や興味を喚起していくことは、この「きぼう」と宇宙飛行士にとって、重要な役割の1つだと思っています。宇宙を志す若い世代の方々がプログラムへの参加を通して、ご自身の能力や知識、技術、またグローバルな人材としての能力を磨いていっていただくことが、将来の科学技術の底上げにつながると考えています。若い世代の方々の科学技術に対する情熱が、日本だけではなく人類社会全体の発展につながることを期待しています」

大西宇宙飛行士と質疑応答をするあべ文部科学大臣(Image by JAXA)

城内宇宙政策担当大臣・質疑応答(抜粋/要約)

—宇宙産業はわが国の自動車産業に次ぐ将来の基幹産業になりうると言われています。そうした観点から日本政府は民間企業や大学等の様々な挑戦に予算面、制度面でバックアップしているところです。宇宙飛行士と地上のフライトディレクタ、どちらのご経験もある大西船長から見て、宇宙分野でどのようなところを強化すべきだと思われますか。

「日本の強みとしては、探査機や人工衛星、ISSに物資を補給する宇宙船、それらを打ち上げるロケット、デブリの処理など、宇宙分野の様々な幅広い分野で活動を進めていることだと思います。世界的にもこれだけ幅広く宇宙開発のさまざまな分野で頑張っている国は少ないと思います」

「政府が推進している宇宙戦略基金の取り組みは、日本の強みをさらに世界で戦える強力なものにしていくための重要な取り組みだと思っています。これから先、さらに力を入れるべきものは、国際宇宙探査時代を見据えた将来技術の獲得だと思います。特にアルテミス計画で活用が期待されている物資の補給技術や生命維持・環境制御技術、月面で使用が予定されている有人与圧ローバーは、日本にとって強みとなる技術です。特に有人与圧ローバーは日本のお家芸ともいうべき自動車産業の知見を集めて研究開発が進められているので、そういった分野のさらなる研究開発を進め、国際社会の中で日本にしかない技術を持つことが強みになると思います。こういった方向の取り組みを進めていくことを私自身もとても期待しています」

大西宇宙飛行士に質問する城内宇宙政策担当大臣(Image by JAXA)

北海道大学 藤田教授・質疑応答(抜粋/要約)

—大西さんには、昨年夏に北海道にご訪問いただき、ありがとうございました。その際、私たちの実験の様子や研究の意義を説明させていただきましたが、それは宇宙で実験を行う上で役に立っていますでしょうか?

「藤田先生からの様々な実験の意義や目的、それまでに得られた実験結果についての説明により、実験に対する理解を深めることができました。宇宙空間での実験を1つひとつ実施する上では、各作業の背景を理解している分、長時間の作業でもスムーズに実施できているように思います。また、藤田先生にお会いしたことで、今回の長期滞在において、FLARE実験の作業を担当することが大きな楽しみの1つになりました。そういった楽しみを持つことが、ISSの閉鎖環境の中で宇宙飛行士の精神衛生面でも非常に大きなプラスになっていると感じています」

大西宇宙飛行士に質問する北海道大学 藤田教授(Image by JAXA)

大学院生 八鍬さん・質疑応答(抜粋/要約)

—FLAREプロジェクトで用いられる実験装置は安全に設計されているものですが、実際に宇宙船内という閉鎖空間の中で物を燃やすことに恐怖心などなかったのでしょうか?また、他の宇宙飛行士の方から何か心配の声はありましたか?

「宇宙ステーションの中では基本的に火気は厳禁なので、そこで燃焼実験を行うこと自体、特別なことではありますが、それだけに燃焼実験には非常に厳しい安全基準が課されており、FLARE実験もそれをクリアした上で行われています。私自身、全く不安はありませんし、他の宇宙飛行士からも不安の声は上がっていません。
このFLARE実験において、微小重力環境下で火災がどのように広がっていくかを調べることは、将来の新しい宇宙船や宇宙ステーションへと活動を広げていく上で、火災の危険性を正確に予知するためには不可欠な技術だと思っています。非常に有意義な実験です」

大西宇宙飛行士に質問する大学院生 八鍬さん(Image by JAXA)

大学院生 鈴木さん・質疑応答(抜粋/要約)

—ISS上でも、火災などに備えて消火訓練や、避難訓練のようなものをされているのでしょうか?

「宇宙飛行士はISSに来た後も、緊急事態対処訓練を地上の管制チームと合同で時折行っています。つい先日も私たちのクルーでそういった訓練を行いました。また、地上で訓練を行なっている時から、緊急事態への対応は宇宙飛行士が最も力を入れて取り組んでいる訓練の1つです。火災への対処の場合は、空気循環を止めて火災原因に酸素を供給する流れを止める、電気系統の火災であればその上流の電源を遮断する、といった方法で消火を行います。また緊急事態の対処にあたっては、ISS船長はチーム全体の指揮をとる必要があり、そういった意味でも常に安全を心がけているところです」

大西宇宙飛行士に質問する大学院生 鈴木さん(Image by JAXA)

大学院生 平賀さん・質疑応答(抜粋/要約)

—私は飛行機のパブリックフライトでの微小重力実験の経験があります。そのとき一瞬ですが、目が見えにくくなったり、耳が少し聞こえにくくなったりした経験があります。大西さんは地上で多くの訓練をされたと思いますが、それでも宇宙に行く際や実際に宇宙にいる中で、何かそのような経験はあるでしょうか?

「耳に関しては、経験はありません。 一方で微小重力による目への影響は、現在の宇宙医学において最大の関心事のひとつとなっています。体液シフトによって脳内の圧力が高まることで、眼球の形が変わったり、視覚に影響が出たりすると考えられています。 私自身も、地上より近くが見えにくいと感じます」

大西宇宙飛行士に質問する大学院生 平賀さん(Image by JAXA)

最後に石破総理大臣から、ISS長期滞在ミッションの成功に向けた激励として「ISS船長として素晴らしいリーダーシップを発揮していただき、世界の宇宙開発における日本のプレゼンスを示すことに大きく寄与していただいています。ありがとうございます。H-IIAロケットの打ち上げも連続して成功し、これまで日本はその技術力の高さを世界に示してきたところです。今後はこの後継機であるH3ロケットによって、新型の補給船を用いたISSへの物資輸送を担っていきます。政府としても、宇宙基本計画に基づいて官民国際間の連携を図りながら、宇宙政策を着実に進めていきます。無事に帰還され、またお会いできることを楽しみにしています」とメッセージが送られました。

それを受け大西宇宙飛行士は、「石破総理どうもありがとうございました。また日本の皆さま、日頃から日本の宇宙開発に応援をくださり、本当にありがとうございます」と感謝の言葉を述べ、「先ほど総理からお話しいただいたH-IIAロケットというのは、20年余りにわたって日本の宇宙開発を支えてきました。先日、その役割を有終の美で終えたところで、その役割を次世代のH3ロケットに引き継いだところです。このH3ロケットは、「使いやすさ」をより追求し、これから世界の宇宙開発に貢献しようとしています。また、H3ロケットで打ち上げが予定されている日本の新しい無人補給船HTV-Xは、貴重な技術実証のプラットフォームとして、またISSに物資を補給する重要な役割を担う存在として、非常に大きな期待を受けています。私は科学技術というのは、そうした物から物、そして人から人へと受け継がれ、発展していくものだと思っていますので、私もこの宇宙ステーションで船長としての責任を最後まで全うして、そして次の世代の宇宙飛行士たちに、そのバトンをつないでいくことで、人類社会の発展に貢献できればと思っています。頑張っていきますので、引き続き応援よろしくお願いします」と力強く語りました。

大西宇宙飛行士のISS長期滞在も予定期間の半分を折り返し、後半に入りました。今後も活動は多忙ですが、後半もぜひ応援してください!

首相公邸特設スタジオの様子(Image by JAXA)

なお、今回のISS交信の様子はYouTubeでアーカイブ配信しています。

JAXA 大西卓哉宇宙飛行士のISS交信(VIPコール)(YouTube:22分00秒)

※本文中の日時は全て日本時間

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

ポスター・プレスキットをダウンロードいただけます。