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「SusHi Tech Tokyo 2025」で、大西宇宙飛行士との交信イベントを開催しました!

東京ビッグサイトで開催された「SusHi Tech Tokyo 2025」のパブリックデイ(5月10日)に、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟と会場をリアルタイムでつないで、大西卓哉宇宙飛行士との交信イベントを開催しました。

「SusHi Tech Tokyo 2025」でのイベントの様子(Image by JAXA)

イベントの概要

5月8日(木)〜10日(土)の3日間にわたり、東京ビッグサイトでアジア最大級のスタートアップカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2025」が開催されました。最終日の5月10日(土)は、市民の方々も来場可能なパブリックデイとして、会場には未来の都市を実感できる最先端技術の展示や体験といったさまざまなコンテンツが集結。その中でJAXAは、ISSに長期滞在中の大西宇宙飛行士との交信イベントを実施。第1部は、「きぼう」がつなぐ宇宙探査と宇宙ビジネスに関するトークセッション、第2部は大西宇宙飛行士による宇宙開発の未来についてのトークタイムが設けられました。

【第1部】「きぼう」利用に関するトークセッション

第1部のトークセッションに登壇したのは、JAXAの伊東和哉と、宇宙事業を推進する民間企業が連携したコンソーシアム「SORAxIO(ソラクシオ)」を代表して、有人宇宙システム株式会社の佐藤巨光さん。【「きぼう」がつなぐ宇宙探査と宇宙ビジネス】というテーマでトークが展開されました。

伊東は初めに、宇宙技術開発の現状について説明。宇宙での技術開発と聞くと、最新技術の粋を集めた…というイメージがあるかもしれないが、必ずしもそうではないこと、ロケットでの輸送上の制約や、宇宙飛行士の安全確保の点から、信頼性の高い既存技術が多く使われていることを語りました。

そして、そのような技術の実験、検証を行う場として利用される、日本の実験施設「きぼう」日本実験棟についても紹介。船内実験室と船外実験プラットフォームの2つの主要な実験環境があり、ISSならではの微小重力を活かして、新たな医薬品開発につながるタンパク質の結晶生成実験や、革新材料の創生につながる物質の性質を調べる実験や燃焼実験などが行われていること、また、国内外の大学や企業が開発した超小型衛星の放出や、学生チームを対象としたロボットプログラミング競技会なども行われていることを説明しました。

さらに、今後進められていく月や火星探査に向けては、距離による通信の遅延や往来にかかる時間の制約が大きくなる点を課題に挙げ、自動的・自律的に宇宙飛行士を支援するシステムやロボットといった技術開発が重要になるだろうと語りました。また、JAXAにおける現在の自動化・自律化技術への取り組みとして、宇宙飛行士の代わりに仕事をする作業支援ロボットの「Int-Ball2」や「PORTRS」、地上から宇宙実験を可能にする遠隔実験ロボットの「GEMPAK」を紹介。実際にどのように動き、どんな役割を果たすのかといった点を、映像を交えて解説し、それらがどんな価値を生み出すのか説明しました。

トークセッションの様子(Image by JAXA)

続いてSORAxIOの佐藤さんからは、民間企業による宇宙事業への参入に関する内容が話されました。佐藤さんは、「きぼう」は実験だけでなくビジネスのプラットフォームにもなり得るという点を強調し、民間企業によるこれまでの利用実例を紹介。実験の他にも、地上と宇宙をつないで双方向ライブ配信を行うKIBO宇宙放送局や、企業の宇宙CM撮影などのエンターテイメント系、地方の創生活動や宇宙教育に関わる利用もあることを説明しました。

また、民間企業が宇宙ビジネスを始めるにはハードルが高いのでは…という懸念に対しては、宇宙という特殊な環境に物を持っていくには安全評価をパスする必要があり、宇宙飛行士に何かをやってもらうには手順書なども必要。そういった数々の準備が障壁となり、躊躇される企業が多いことは実感しているとした上で、そこに対してSORAxIOがサポートできることは何なのか追求していきたい。また宇宙開発をもっと身近に感じてもらい、民間利用が加速していくよう、新しいルールやガイドラインの策定も進めていきたいと語りました。

そして、2008年にISSに「きぼう」が完成してから今までの間に、日本はさまざまな有人宇宙技術を蓄積してきており、それらが今後のアルテミス計画、有人月面探査や火星探査にも活かされていくだろう。また一方で、これからの地球低軌道では民間の宇宙ステーションが当たり前になり、民間ビジネスの場になっていくだろう。この2つのルートを連続的につないでいくことに取り組みたいと述べました。

【第2部】大西宇宙飛行士による未来の有人宇宙活動についてのトークタイム

第2部は、大西宇宙飛行士とのリアルタイム交信。会場前方の大型モニターに「きぼう」日本実験棟の船内の様子が映し出され、大西宇宙飛行士は「私は今、地上約400km上空を飛行するISSに滞在しています。ちょうど太平洋の上空を飛んでおり、こちらの時間では朝8時30分を回ったところです」と状況を語りました。

そして、会場との交信企画の1つめの質問コーナーがスタート。事前に集めた質問に大西宇宙飛行士が回答しました。その中にあった「誰でも気軽に宇宙旅行に行けるようになりますか?また、それはあと何年くらいで実現しそうですか?」という問いには、「宇宙旅行を実現するためには、コスト面と安全面が課題になる。この2つのバランスを取るのが難しいことだと思うので、飛行機で旅行に行くのと同じように気軽に行けるようになるのは、まだ数十年先になるように思う」と述べつつも、「ただ、技術が進歩するスピードは非常に速い。自分が生まれた約50年前に今の社会が想像できていたかと言うと、必ずしもそうではないので、もっと近い未来に実現するかもしれない」と語りました。

続いては、大西宇宙飛行士自身もはじめての試みとなる交信企画、「きぼう」日本実験棟内部の紹介ツアーです。大西宇宙飛行士がカメラを持ちながら「きぼう」を巡り、撮られた映像がリアルタイムで会場のモニターに映し出されます。第1部で紹介のあったInt-Ball2が充電のためのドッキングステーションで待機している様子や、さまざまな実験を同時進行で行うことができる複数の実験ラック、宇宙空間へモノの出し入れが行えるエアロックなど、なかなか直に見ることのできない設備が紹介されました。

さらに、「きぼう」の中で見てみたい場所やモノは?というお題で会場アンケートも行われ、「A:物置 B:窓 C:冷蔵庫」の3つの選択肢が挙げられました。その中で来場者の要望が多かったのは「窓」。大西宇宙飛行士は、「きぼう」の壁面にある丸い窓のシャッターを開け、普段は船外で行うロボットアームの運用や実験の状況を見るために使われることを説明し、窓から見える景色も紹介しました。そこには、地平線(水平線)が太陽の光を受けて光っている様子、太陽光を電力に変換する太陽電池パネルなどが見え、本当にISSと交信していることが実感できる時間となりました。

大西宇宙飛行士とのリアルタイム交信の様子(Image by JAXA)

大西宇宙飛行士から最後のご挨拶

ISSと地上をつないだ交信イベントもいよいよ終盤。最後は、大西宇宙飛行士から会場にお越しいただいた方へ、次のように挨拶を行いました。

「短い時間でしたけれども、今日はどうもありがとうございました。少しでも「きぼう」の素晴らしさを皆さんにお伝えできていれば幸いです。このような活動を通じて、より多くの方々に宇宙について興味を持っていただき、「きぼう」を利用してみようと思うきっかけになればいいなと思っています。今、「きぼう」では、様々な民間企業の方々の研究も行われています。これから先、この「きぼう」の利用が一般の方々にとって身近なものになっていくと、私自身も嬉しいです。今日はどうもありがとうございました」

※本文中の日時は全て日本時間

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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