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大西卓哉宇宙飛行士 ISS滞在中の「きぼう」日本実験棟での利用ミッションに係る記者説明会および国際宇宙ステーション長期滞在に係る記者会見

2025年2月以降にクルードラゴン宇宙船運用10号機(Crew-10)に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在を予定している大西卓哉宇宙飛行士が、11月27日に記者会見を行い、現在の自身の状況やISS長期滞在に対する意気込みを語り、報道関係者からの質問に答えました。また、同時に大西宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)滞在中に予定されている「きぼう」日本実験棟での利用ミッションに係る記者説明会が行われ、インクリメント72(※)を担当する井上夏彦インクリメントマネージャがその内容について概要を説明しました。

※インクリメントはISSの運用期間の単位です。担当するインクリメント期間の利用計画を立て、すべてのミッションを成功に導くためのコーディネータがインクリメントマネージャです。

記者会見に臨む大西宇宙飛行(Image by JAXA)

前半の記者説明会では、インクリメント72(2024年9月24日~2025年3月末頃)を担当する井上インクリメントマネージャから、大西宇宙飛行士のISS滞在中に予定されているミッションの説明が行われました。火災安全性向上に向けた固体材料燃焼実験(FLARE)や、重力変動ががん治療薬の効果に及ぼす影響の研究、静電浮遊炉(ELF)を使用した高精度熱物性測定、将来有人宇宙探査に向けた二酸化炭素除去の軌道上技術実証など、「きぼう」日本実験棟ならではの特徴を活かしたミッションが多数、実施される予定になっています。

  • JAXAが実施予定の「きぼう」利用ミッションの詳細はこちら
大西宇宙飛行士とミッションの説明を行う井上インクリメントマネージャ(Image by JAXA)

大西宇宙飛行士の冒頭の挨拶(抜粋/要約)

「JAXA宇宙飛行士の大西です。どうぞよろしくお願いします。現在、私はクルードラゴン運用10号機への搭乗が決まっており、最速であれば、来年2月の打上げを目指して訓練中です。昨年の10月頃から長期滞在に向けた訓練を開始しており、ISSの運用・保守・維持等に関しては、ほぼ準備を終えています。クルードラゴンに関する訓練も約9割程度終了しており、あとは管制チームと行う統合シミュレーション訓練などが残っている状況です。明日行けと言われれば、もう行けるぐらいの状態まで仕上がってきたと思います」

「前回のミッションでは、長期滞在に向けての訓練を2年半近く行ったのですが、その時と比較すると、今回は1年足らずで順調に準備を終えられている点が、かなり大きな差だと思っています。自分が大好きな高校野球に例えさせていただくと、1回目のミッションは春夏通じて初出場するチームのように、右も左も分からず、甲子園での練習も地に足がつかない状況で大会当日を迎えるような感覚だったのが、2回目のミッションは、2年ぶり2度目の甲子園出場を果たすチームのような、そんなイメージです。甲子園での試合本番に向けた一連の流れを一度経験していることが非常に大きく、次にどんなイベントが自分を待っているのか、練習の時にどういうところに着目してその練習を行うべきなのか、本番でどのように立ち振る舞うべきなのか、そういったイメージがすでに頭の中にあるということが、短期間で準備を整えることができた、一番大きな要因だったと思っています」

質疑応答(一部)

今回が2回目のISS長期滞在ミッションですが、その訓練の中で印象に残っているものがありましたら教えてください。

「宇宙船の訓練は、やはり元パイロットとしては非常に興味深いところです。特に前回と今回では乗って行く宇宙船が違うので、そういった意味では、非常に興味深く訓練を受けているところです。ソユーズ宇宙船もクルードラゴン宇宙船も、宇宙船であることは同じですが、その個性は全然違っています。クルードラゴンに関しては、自動化や地上からの遠隔操作といった部分が高度に発達した機体だと思います。例えば自動車で言うと、マニュアル車が好きな人や、オートマ車でないと嫌な人がいるように、個人的な好みだけで言わせていただくと、ソユーズ宇宙船の方が面白かったかなとは思います。宇宙飛行士が自ら手動で何かやるという余地がソユーズはたくさん残っているので、パイロット的な観点では、そちらの方が楽しかったというのが正直なところです。ただ世の中全体のテクノロジーの進化の流れとしては、クルードラゴンの登場は必然の流れだったとも思います。今後、私たちプロフェッショナルの宇宙飛行士ではなく、一般の方々が最低限の訓練で宇宙に行けるような時代が来る中で、クルードラゴンのような高度に自動化が進んだ宇宙船が登場するのは時代の流れなのだろうと思います」

ミッションロゴのデザインについて、大西さんご本人から解説をお願いできますか。ご自身から出された要望などもあれば教えてください。

「自分からの要望は、出しました。これまでにないデザインにしたいという思いがあり、従来のミッションでは黒系の色が多かったのですが、今回は暖色系にしたいということをお伝えし、このオレンジになりました。夜明けをイメージした色で、その下に描かれているのは筑波山です。私はフライトディレクタとして地上の管制チームの仲間と長い間一緒に仕事をしてきましたが、今回は、その仲間と一緒に宇宙で仕事ができることを非常に楽しみにしています。なので、このデザインは地上から仲間たちがISSを見上げているところをイメージしています。そこに込めた想いとしては、宇宙と地上で力を合わせてやっていくのだということと、ISSで行った実験の成果をしっかり地上に持ち帰ってくるのだということです。地上にウエイトを置いたデザインになっています」

記者の質問に答える大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

最初のISS滞在を終えた後、地上でいろいろな仕事をされていますが、2回目のISS滞在に向けて糧になったことは何でしょうか?

「前回のフライト以降の自分の経験で糧になったことを挙げると、やはりフライトディレクタという業務を遂行したのが一番大きいと思っています。前回、ISSから帰ってきたばかりの時に、自分が次にやるべきことはフライトディレクタだと思いました。なぜなら、宇宙で作業をしている時、地上では何がどう行われているのか想像を働かせるには限界があり、実際にどういう人たちがどういう動きをしているかのまでは、なかなかイメージしにくかったからです。私は、地上の管制チームと現場の宇宙飛行士というのは車でいうと両輪の関係だと思っています。どちらかが早く回りすぎたり、カーブの時に息を合わせられなかったりすると、うまく車が進まないのと同じで、宇宙飛行士と地上の人たちがうまく力を合わせることで初めてスムーズに宇宙実験が進んで行く。なので、彼らの仕事をもっと知るためにはフライトディレクタをやるべきだと感じ、実際に担当させていただきました。そこで得た経験が、今回2回目のフライトにおいて自分を助けてくれると思っています。地上で仕事をしていると、これは大丈夫だろう、簡単だろうと思っていたタスクが、宇宙飛行士と管制チームの間で息が合わず、思わぬミスが出たり、スムーズに進まなかったりする場合があります。逆に、これは大変そうだ、宇宙飛行士の作業も管制チームのサポートも慎重に行わないと手ごわそうなタスクが、両者の息がぴったり合致してスムーズに進む場合もあります。なので、次のミッションでは両者の息が合う回数が増えるように頑張っていきたいと思っています」

「きぼう」利用戦略における位置付けとして「国際有人宇宙探査に向けた有人宇宙技術の獲得」、「新たな価値創出の準備」というようなことが掲げられていますが、今回、いろいろな研究者と直接話された経験も踏まえて、前回のミッションと比べてどういった違い、変化があると思われますか。また、楽しみにしているミッションがあれば教えてください。

「前回2016年の時の「きぼう」は、まだプラットフォーム化を進めていく過程にあったと思っています。それから約9年という時間が経った今では、そのプラットフォーム化がかなり進んだなと非常に強く感じています。前回、私は静電浮遊炉(ELF)という実験装置の初期チェックアウトを担当させていただきました。そこではいろいろな問題、不具合が発生して、それを地上の研究者やエンジニアの方々が、試行錯誤してソフトウェアを改良したり装置にアップデートを加えたりする状況でした。それが今はもうフル稼働する状態になっており、私たちが目指していた「きぼう」のプラットフォーム化が十分に達成されたのではないかと感じています。今回、当時自分が一生懸命取り組んだELFを使った実験がいろいろ控えていますので、これにもう1回触れられるというのは非常に楽しみです。私自身、大学で材料系の勉強をしていたこともあり、このELFという装置は思い入れが強い装置です」

記者会見に臨む大西宇宙飛行士(Image by JAXA)

昨年の会見時に船外活動への意欲を示していらっしゃいましたが、今回その予定はあるのでしょうか?また、先ほどISS滞在は今回が最後になるかもしれないとおっしゃっていましたが、月探査への意欲はおありでしょうか?

「船外活動(EVA)に向けた具体的な計画があるかどうかは、まだはっきりと申し上げられる段階ではありません。船外活動が入ってくるかどうかは、ISSという大きなプログラム全体の流れの中で、国際間の調整によって決まります。入ってくればもちろんありがたいですが、計画として入っていても、それが実際に行われるかというのはまた別の話になります。船外活動は非常に大きなリソースを取るため、ちょっとした他の出来事によって実施する時期が大きく変わってしまったりします。なので、仮に自分のミッション期間にEVAが入ってきたとしても、あまり大きな期待は抱かずにいたいと思っています」

「なお、EVAを自分が担当するかどうかは、またさらに別の問題で、その時に、例えば他の仕事のワークロードがどうなっているか、誰にどういった経験を積ませるのが重要か、といったことも関わってきます。ここも、JAXAを含めた各極の話し合いによって決まるので、自分ができればいいなという気持ちでいるだけです。自分にその資格があるかどうかという点でいうと、資格はあります。訓練でしっかりと成績は残せましたので、船外活動を担当できる条件は整っており、あとは環境が整うかどうかというところになるかと」

「それからISSでのミッションについて、これが最後になるだろうというのは自分自身の感覚であり、JAXAから言われたわけではありません。自身の年齢や後輩が育ってきていること、これから新たな後輩がまた入ってくるであろうことを考えると、自分がISSに行くのは最後だろうと思っています。その次のステップとして月に行きたいかどうかと問われれば、宇宙飛行士としてはやはり行きたいです。自分に必要なスキルが身についているかどうかはまだ分かりませんので、まずは直近のこの2回目のミッションをしっかりとやり遂げること。次のステップに繋がるとしたらそこが大事だと思いますので、そういう気持ちでISSのミッションに臨みたいと思っています」

宇宙に関心を持っている在野の研究者あるいは民間企業の方々に何かメッセージがありましたらお願いします。

「民間の方々からすると、宇宙実験や「きぼう」の利用というのはなかなかイメージがしづらく、ハードルも高いのではないかと思っています。その点はJAXAとしても重々理解しており、いかにそのハードルを下げるのかについては日々努力しています。まずは興味を持っていただいて、ISSが非常にユニークな実験環境を持っていて、それを実現できる環境は地上にはどこにもないことを知っていただく必要があります。こういったユニークな環境を生かした利用は、むしろ民間の方々の方が様々なアイデアをお持ちだと思うので、ぜひそのお力をお貸しいただきたいと思います」

記者会見の様子(Image by JAXA)

大西宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)

「本日はこのような機会を与えてくださり、本当にありがとうございます。関係者の方々、ここにお集まりの皆様、それから今YouTubeでご視聴くださっている方々に改めて厚くお礼申し上げます。最速で来年2月の打ち上げまで、もう3か月をきっていますが、残りの3か月を有意義に使って、今の自分のスキルをさらにブラッシュアップして、ISSに行ってきたいと思っています。私はこの夏に、実際に自分が携わるかもしれない実験の代表研究者の方々のところにお邪魔して、直接お話を伺うことができました。皆さん、非常に熱い思いでご自身の実験を準備してくださっていますので、そういった思いに応えられるよう、しっかりと仕事ができればと思っています。これから先、ミッション終了までぜひ見守って応援していただければと思います。引き続きどうぞよろしくお願いします」

説明会および会見には17社24名のメディアが参加し、他にも多くの質問が寄せられました。また会場の模様は、JAXAの公式YouTubeチャンネルでもライブ配信されました。見逃した方は、こちらでアーカイブ配信されていますので、ぜひご覧ください。

大西宇宙飛行士のISS滞在中の「きぼう」日本実験棟での利用ミッションに係る記者説明会及び国際宇宙ステーション長期滞在に係る記者会見(YouTube:1時間13分15秒)

※本文中の日時は全て日本時間

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

ポスターをダウンロードいただけます。