JAXA大西卓哉宇宙飛行士の国際宇宙ステーションからの軌道上記者会見

6月20日夜、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟において、大西卓哉宇宙飛行士が軌道上から記者会見を行いました。
大西宇宙飛行士の冒頭の挨拶(抜粋/要約)
「私は現在地上約400km上空を飛行している国際宇宙ステーションに長期滞在しています。また現在、第73次の長期滞在クルーの中では、船長という大役を担っています」
「私が国際宇宙ステーションにやってきてから、3か月が経ちました。今回、宇宙空間に来た瞬間から、約10年ぶりの無重力状態の感覚を思い出しました。細胞の1つ1つがその感覚を覚えていたのでないかと思うほど、強く自分の中に残っていたのを感じます」
「4月下旬に様々な補給物資と新たな実験装置を積んだドラゴン補給船がやってきて、5月初旬に船外活動が実施されました。その1か月間は業務量が多く、とても忙しかったのですが、チームワークよく、みんなで協力しながら、乗り越えられました」
「来週以降、米国の民間企業アクシオム社の商業ミッションで、4名の民間宇宙飛行士が到着します。彼らのミッションが安全に遂行されるように、船長としても私の責務を全うしていきたいと思っています」
「今回、船長という大役を担えているのは、これまでの日本の宇宙開発が世界の中で認められてきた結果だと思っています。私がここでしっかりと責任を果たすことで未来につなげていきたいと考えています。国際的なメンバーを率いてしごとを取り決めていくこと自体、初めてのことなので、日々、大きなチャレンジですが、それだけ大きなやりがいを感じています。長期滞在は後半戦に入っていますが、引き続き全力で職務に当たっていきたいと思います。応援よろしくお願いします」

質疑応答
打ち上げの前の会見では、「今回が最後のISS滞在になるかもしれないので、集大成にしたい」とお話をされていました。滞在を始めてからこれまで、どのような気持ちで日々のミッションに臨んでこられましたか。今回は船長も勤めていますが、1回目の滞在と比べて、仕事に対する意識や他のクルーとの接し方などで変化はありましたか。
「1日1日をすごく大切にしながら業務に当たっています。例えば、「この実験装置に触るのは、これが最後になるかもしれないな」と思うことも多くなってきたように感じます。今回、私の長期滞在のテーマとして、『「きぼう」にできる、ぜんぶを』というテーマを掲げています。それに加えて、「自分にできる、ぜんぶを」という意識で、残りの日々も過ごしていきたいと思っています」
「1回目の長期滞在と比較すると、地上でのフライトディレクタ業務の経験が生きていると思います。前回よりも大きな視野で全体が捉えられている実感があります。いろいろな問題が起こったとき、地上の動き方を考えることで、軌道上でも先を見越して動いています。自分でも、かなり進化した状態で今回のミッションに臨めていると思います」
「今、ISSにいる7人のクルーのうち4人が、初めての宇宙飛行となるルーキーです。私自身、今回2回目の宇宙滞在ですし、先輩として彼らを一人前の宇宙飛行士として育成していくという点にも注意し、彼らが次の世代の宇宙飛行士に彼らの知見をしっかりとつないでいけるように意識を持って業務に臨んでいます」
今回の滞在中に取り組んだ実験で、手応えがあった実験やおもしろかった実験があったら教えてください。また、研究、実験環境としての地球低軌道の重要性について、今回改めて認識されたことがあれば教えてください。
「細胞が重力を検知する仕組みを調べる「Cell Gravisensing(細胞の重⼒センシング機構の解明)」の実験が、これまで行った実験の中では一番やりがいを感じた実験です。宇宙実験は基本的に何か月もかけてやるものが多い中、このミッションは約1週間という超短期ミッションで、休日も返上して毎日作業を行っていました」
「人工重力器を止め、無重力状態になった瞬間から顕微鏡で観察するまでの時間をなるべく短くして、新鮮なデータを取りたいという研究者の方の強いご意向があり、その間隔をいかに短縮できるかは、私の軌道上での腕の見せどころでもありました。地上の管制チームの人たちと、ぴったり息を合わせないと時間の短縮は難しかったのですが、研究者の方が求めているパフォーマンスをしっかりと出すことができたことは、チームの一員としてとてもやりがいを感じました」
「ISSの微小重力環境は本当に特殊だなと、日々、生活する中で感じます。微小重力環境が24時間365日継続している環境は、地球のどこにも存在していません。国際宇宙ステーションを含め、低軌道の実験施設の中でしか実現できない環境です。この特殊な環境を利用して、さまざまな実験成果を地上の人々の暮らしに還元したり、これから先の国際宇宙探査ミッションにつながるような新しい技術実証を行ったりする場として、とても意義のある場だと感じています」
人類が月面、火星を本格的に目指そうとする中で、宇宙飛行士になりたい、自分が未来を切り開きたいと感じる子どもたちにメッセージやアドバイスをお願いします。
「私自身の経験を振り返ってみて、自分の好きなことや得意なことをやっていたときよりも、自分が苦手なことや嫌だなとか、大変だなと思うことを、がんばった経験の方が、自分を成長させてくれたと思います。それは、おそらく人類に対しても同じことがいえると思います」
人類は昔から、より困難なことに、挑戦することで自分たちを成長させてきた生き物だと思います。これから先、月面、火星と、大きな目標にチャレンジしていくことは、とてもすばらしいことです。火星は、私たちの世代ではなく、今、この放送を見ている小さな子どもたちの世代が達成していくゴールでしょう。私たちの世代の夢を引き継いで、これから先、宇宙開発の場でがんばって欲しいです」
今回は、Int-Ball2(JEM船内可搬型ビデオカメラシステム実証2号機)が相棒のように、大西さんに寄り添っている姿が印象的です。Int-Ball2のすばらしさを教えてください。また、Int-Ball2にねぎらいや叱咤激励の言葉をお願いします。
「Int-Ball2は、私たち宇宙飛行士の目の代わりになって、地上の人たちに私たちの見ているものや、周りの環境の様子を伝えることが大きな役割で、現在はいろいろなテストを行っている状態です。テストが一段落したら、いろんな作業ができるようになると思っていますので、とても期待しています」
Int-Ball2と一緒に仕事をするようになって、自分が親しみや愛着を持てる存在が、宇宙空間で身近にいることは宇宙飛行士のメンタル的なサポートという意味でも、大きな要素があるなと感じています。私たちの仕事に直接的に役立つだけでなく、感情面のケアなど、プラスの役割もロボットが宇宙で担っていくような気がするので、活躍の場を広げていって欲しいですね」

来月以降に、同期の油井さんがISSに向かいます。大西さんの心境や2人で一緒にやりたいことなどを教えてください。
「私の同僚でもあり、人生の先輩でもあり、仲のいい友人でもある油井さんと、宇宙で一緒に時間を過ごすことを、とても楽しみにしています。一緒に過ごせる期間は、数日になりそうですが、私がこれまで「きぼう」の中で培ってきた知見を、しっかりと引き継ぎいでいきたいです」
「今回、補給船のスケジュールの関係などで、私が楽しみにしていた実験の中で実施できなかったものがありました。同じJAXA宇宙飛行士の油井さんがそれを引き継いでくれるなら、私も安心してISSを去ることができます」
「2人の日本人が宇宙空間に同時に滞在するという、なかなかない貴重な機会です。2人ともSNSをやっていますし、何かしら楽しい企画をできればいいなと、少し相談しています」
2030年いっぱいでISSが退役する予定です。現在、「きぼう」で進められている数多くの実験や研究は、残り5年間でどの程度進められそうですか。その後のポストISSへの引き継ぎなどについてのお考えもあればお聞かせください。
「2030年まで、このISS「きぼう」をしっかりと使い切ることは、とても重要なことだと思っています。その先に、自然とそれ以降の商業民間宇宙ステーションでの宇宙実験、宇宙利用に、その知見が生かされていくでしょう。現在、私たちが持っているこの「きぼう」を最大限活用して、少しでも今の知見を高めて、次のステップにつなげていくことがとても重要だと思いますし、それが今のJAXAに課せられた役割だと思っています。引き続き、ぜひ応援をよろしくお願いいたします」
滞在中の様子を積極的にSNSで発信されていますが、情報発信で心がけている点を教えてください。
「宇宙開発に対して、難しいイメージやたいへんなイメージを持たれる方も多いと思います。でも、私たち宇宙飛行士の生活はとても人間くさい部分もあります。宇宙での生活や仕事について、なるべくわかりやすく地上の方々にお伝えできればと思ってやっています」
「一番伝えたいことは、私たちがやっている実験の意義や、今後、どのようなことにつながっていくかなどですが、難しい話だけではたくさんの方に興味を持っていただくのは難しいと思います。そこで、緩急を織り混ぜながら、私たちの世界について、たくさんの方に楽しく紹介したいという気持ちで情報発信を続けていきたいと思います。ぜひフォローをお願いいたします」
大西宇宙飛行士会見終了の挨拶(抜粋/要約)
「引き続き、全力で「きぼう」での実験を続けていきたいと思いますし、船長としても仲間のクルーを率いていきたいと思いますので、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました」

軌道上記者会見の様子は、JAXA YouTubeチャンネルにアーカイブがありますので、見逃された方はぜひご覧ください。
JAXA 大西卓哉宇宙飛行士の国際宇宙ステーションからの軌道上記者会見(YouTube:21分15秒)
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