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大西宇宙飛行士による特別授業『宇宙校外学習』を、済美高校(愛媛県)で開催しました!

「宇宙校外学習」イベントの様子(Image by JAXA)

4月21日に、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在中のJAXA大西卓哉宇宙飛行士との交信企画、『宇宙校外学習』を開催しました。このイベントで、ISSとリアルタイムで交信を行ったのは、愛媛県の済美高等学校。約170名の生徒と先生が参加しました。

イベントの概要

今回のイベントは、日本国内の中学校や高等学校を対象とし、事前に参加校募集が行われました。そして、たくさんの応募の中から選ばれたのが、愛媛県の済美高等学校。同高校OBというティモンディ前田裕太さんが司会進行役を務め、第1部は「JAXA職員による、宇宙に関わる仕事の紹介」、第2部は「大西宇宙飛行士との交信による特別授業」の2部構成で行われました。第1部では、JAXA有人宇宙技術部門で働く職員が、自身の高校生時代も振り返りながら、宇宙の仕事に就くまでの話や現在携わっている仕事の内容について語りました。第2部の特別授業では、ISSと地上をつないでリアルタイムで交信。大西宇宙飛行士による講演の後には質疑応答のコーナーも設けられ、代表者7名それぞれが自身の疑問や思いを大西宇宙飛行士にぶつけました。

【第1部】JAXA職員による、宇宙に関わる仕事の紹介

第1部に登壇したのは、JAXAで職員として働く桐間惇也と齊藤慧の2名。まずは、JAXAがどういった機関で、どのような活動、業務を行なっているのかを説明し、その中で自身が所属している部門やチーム、携わっている仕事内容などについて自己紹介をしました。

有人宇宙技術部門 宇宙環境利用推進センターに所属する桐間惇也は、ISSにある日本の実験施設、「きぼう」日本実験棟について説明し、そこで行われる宇宙実験を取りまとめる仕事をしていること、中でも細胞などを扱うライフサイエンス系のミッションを担当していることを説明しました。

続いて有人宇宙技術部門 新型宇宙ステーション補給機プロジェクトチームに所属する齊藤慧は、新型補給機は「HTV-X」と呼ばれ、ISSに物資を運搬するためのものであること、2025年度の打上げを目標に開発が進められていることを説明。ロケットや宇宙飛行士の打上げはもちろん、補給機の打ち上げにも注目して欲しいと伝えました。

また、愛媛県に関わるエピソードも語り、桐間は出身が松山市で幼い頃はよく愛媛県立総合科学博物館に通っていたこと、齊藤はISSへの補給物資として愛媛県のみかんが宇宙に運ばれており、生鮮食品が貴重な宇宙では宇宙飛行士にとても喜ばれることを紹介しました。

生徒たちにも馴染みのある愛媛トークで盛り上がった後は、第1部のテーマである「宇宙に関わる仕事」について内容を深掘り。2人がどんな高校生時代を過ごし、今の宇宙の仕事とどうつながっているか、というお題でトークが展開されました。

齊藤は、自身の高校生時代を振り返り、文化祭も体育祭も隙あらばサボってしまうことがあったものの、自分が『これだ』と興味を持ったことには一生懸命、全力投球するタイプだったと答えました。そして、高校生の時から宇宙の仕事への憧れは強くあり、宇宙に対して『これだ』と思った気持ちを諦めずに持ち続けたことが、今の仕事につながっているように感じると語りました。

一方、桐間は、生物が好きだったので高校生時代は理系で生物を選択し、当時から生物系かつ科学教育に興味があったと答えました。そして、元々は教師になるつもりだったが、齊藤と同じように自分の興味にとことん向き合った結果、大学院で博士課程に進んだことを説明。さらに、JAXAに所属する前は科学館で学芸員をやっていたこと、その時にプラネタリウムの解説員としてやって来た元JAXA職員の方がきっかけで宇宙に興味を持ち始めたこと、JAXAにも自分の専門の生物が生かせる部署があることを知り、今こうして職員として働いているということを述べました。

この後、話題は「宇宙に関係する仕事につくために必要なこと」に移り、司会の前田さんが2人に、生徒たちの進路や将来へのメッセージを促しました。

これに対し桐間は、宇宙には興味のない人もいるかもしれないが、宇宙はあくまで「場所」であり、地球にある仕事の幅がほとんどそのまま宇宙にも適用されると思うと語り、宇宙の仕事に限ったことではなく、何かの仕事に就こうと思ったら、自分の好きなこと、得意なことがその仕事にどう活かせるのかを考えて欲しい、その自分だけの個性に気づくことが進路や仕事の選択には重要になってくると思うと伝えました。

また齊藤は、根性論のようだが絶対に大事なのは「諦めないこと」。その情熱が必要だと語り、それと同時に、目標を達成するために自分は何をやるべきか、アプローチの方法を冷静に考えること、たまに立ち止まって、それは本当に自分のしたいことなのかを見つめ直すことも大切だと思うと伝えました。そして、どんな道を選んでも結局は自分の人生。自分の将来は自分の選択で決まり、その選択は後から変えようがないので、選んだ道が正解になるように、その道を諦めない情熱と、進んで行くための計画を忘れないで欲しいとエールを送りました。

【第2部】大西宇宙飛行士との交信による特別授業

続いては第2部、いよいよISSに滞在中の大西宇宙飛行士との交信です。前方の大型モニターに大西宇宙飛行士の姿が映ると、会場からはワーッという歓声が上がりました。

特別授業の冒頭は、大西宇宙飛行士の自己紹介からスタート。民間航空会社でパイロットの仕事に就いていた経歴や、宇宙飛行士になろうと思ったきっかけ、JAXAに入構してからのキャリアを紹介しました。また、済美高校がある松山市は、幼い頃は夏休みなどに過ごした場所であることや、高校野球好きの自分にとっては、済美高校といえば高校野球の強豪校というイメージがあり、TVを見ながら応援していたというエピソードも語りました。

そしてここからは本題の特別授業。事前に済美高校から寄せられていた希望に応える形で、大西宇宙飛行士が講演を行いました。主な内容としては、地上約400km上空を飛んでいるISSの状況、微小重力という宇宙環境ならではの特徴、そして自身の高校生時代について。ISSやその特殊な環境を説明する際は、地球に見立てたビニール製のボールでISSの軌道と無重力について説明したり、自身の作業ズボンにつけられているマジックテープや、飲料水パックから出した水の様子を見せて、微小重力環境では物の固定に工夫が必要になることや、地球では隠されている水の表面張力が顕在化することを、自身で実践してみせながら、高校生にも分かりやすく解説を行いました。

大西宇宙飛行士とのリアルタイム交信の様子(Image by JAXA)

また、高校生時代を振り返って、「勉強はそれほど好きではなく、運動も得意ではなかった、ごく普通の高校生だった」と語りました。ただ、好きではなかったものの、勉強は頑張っていたこと、それが幸いして大学への進学、パイロットとしての就職、最終的に宇宙飛行士になるという夢にもつながったことから、「皆さんにも好きなことや楽しいことだけでなく、つらいこと、苦手なことも頑張るように心がけて欲しい」とメッセージを贈りました。

この後、質疑応答のコーナーへ移り、学校を代表して生徒6名と先生1名が大西宇宙飛行士に直接質問を投げかけました。多かった質問は、自分自身の立場や興味に関わる内容と、宇宙という特殊な環境に関わる内容。

国際コースで学んでいる生徒からは『ISSにいる宇宙飛行士たちは普段、何語で会話しているのか』、星に関する仕事に就きたいという生徒からは『流星群や星の見え方は地球上と宇宙空間とで違いがあるのか』、自然科学部で「火星で生物は生存できるか」という研究をしている生徒からは『将来、火星に人は住めると思うか』という質問がありました。

また、宇宙環境に関わる内容としては『宇宙で生活したことで身についた新たな能力があるか』『宇宙での長期滞在中、孤独感やストレスへの対策をどうしているか』といった質問があがりました。

他にも、済美高校の「やればできる」という校訓を例にあげ、『何か大きなことに挑戦する際はどんな心持ちで臨むのか』という質問や、済美高校が過去、宇宙日本食開発に取り組んだ経験を踏まえて『大西宇宙飛行士の好物は何か、愛媛県に関わる食材があるか』といった質問もありました。

大西宇宙飛行士は全員に「ご質問ありがとうございます」と感謝を述べ、自身がこれまでに経験したこと、宇宙飛行士として身体や心を通じて実感したことなど、具体的な話を交えながら丁寧に回答しました。

大西宇宙飛行士とのリアルタイム交信の様子(Image by JAXA)

大西宇宙飛行士からのまとめの言葉

ISSと地上をつなぎ、大西宇宙飛行士から直接話を聞く貴重な機会となった交流イベントも、いよいよ終盤。司会の前田さんからマイクを向けられた大西宇宙飛行士は、次のように述べました。

「済美高校の皆さん、今日は短い時間でしたが本当にありがとうございました。久しぶりに日本の学生の皆さんとお話しができて、とても楽しかったです。途中でもお話ししたように、皆さんには、好きなことだけでなく嫌いなこともぜひ頑張ってもらいたいなと思います。自分を振り返ってみても、嫌いなことを頑張った経験が、いちばん自分を成長させてくれたように思いますし、自分が本当にやりたいと思ったことをやる時に、いちばん自分を支えてくれたような気がします。皆さんには、これからぜひたくさんのことに挑戦し、頑張る姿勢を忘れずに学生生活を過ごして欲しいなと思います。今日は本当にありがとうございました。」

※本文中の日時は全て日本時間

JAXA 有人宇宙技術部門 Humans in Space人類の
未知への挑戦を。

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